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五月祭の朝
メーデーのあさ
作品ID54027
著者百田 宗治
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」 新日本出版社
1987(昭和62)年5月25日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-08-21 / 2015-05-25
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


今日は五月一日だ、
五月祭の朝だ、
空はほがらかに晴れ、
大気はおだやかな海のように澄んでいる、
飛び散る一片の雲もない、
――近くの小学校で生徒達の唄う声がきこえる。

今日は五月祭の行われる日だ、
世界の労働者達が
結束して示威運動を行う日だ、
彼等が幾度か血で血を洗い、
同胞の生命を犠牲にした贖いを求める日だ、
額に汗するものの、
正当の権利を叫ぶ日だ――。

(私は知っている、彼等と彼等が楯つくものとの間のいたましい紛糾の爆発を、
相せめぎ合うこの地上の階級と階級の戦いを、
おそらく永遠に停止されないであろう是れらの避けがたい軋轢を、
自由と正しい権利への希求の声を、
地上に平等であるべき生活権の最後の保証を!
あらゆる圧制よりの生存の解放の叫びを!

……用意されたものと用意されたものとの避けがたい争闘の過程を、
あらゆる計画と、予定と、巧妙を極めた運動と、駆引と、圧迫とさまざまの非常手段を。

オオ、あらゆる都市の広場は彼等の群で埋められ
彼等の様々の服装と個々の叫びで一杯になり、
うちふられる旗が天空を掩うのを……)

 ――彼等の妻や子供もまた彼等のうしろにあって叫ぶ――
あらゆる工場、あらゆる軍機製造所、あらゆる紡績工場、今日の一切の生産と供給の機関はこの一日停止され、
彼等のデモンストラシオンは至るところの大道に充ち溢れる、
彼等は歌う『自由』と『労働』の歌を、
『見よ、われわれの産業運動の威力を!』と。

アアそして遂に一切の都市の秩序と保護に任ぜられた警官隊又は軍隊との衝突!
それらの縄張への侵入、
熱狂と熱狂との後先もない燃焼、
発射される短銃――それを奪いとろうとする群集の叫喚
彼等の一人は無照準に射出された弾丸の犠牲となって斃れ、
他の一人はその下になって踏みにじられる。

……今日は五月一日だ、
五月祭の行われる朝だ、
空はほがらかに晴れ、
大気はおだやかな海のように澄んでいる、
動く一片の雲もない、
――近くの小学校で生徒達の唄う声がきこえる。
(発表誌不詳 『百田宗治詩集』を底本)



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