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おふくろへ
おふくろへ
作品ID54034
著者槙本 楠郎
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「プロレタリア詩」1931(昭和6)年1月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-07-13 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

おふくろよ
おれは おまえまで
そう かわっていようとは おもわなかった
まえば が 一ぽんしか のこっていなかったというのではない
あたま が まっしろになっていたからというのでもない
また こし が ひんまがっていたからというのでも むろん ない
おふくろよ
おれは あのばん
おまえが もりあげて だしてくれる むぎめしの
しみて ざくろのみのように ポツポツするやつを
やぶれしょうじ の なかにはった ねまきのまえで かきこみながら
おまえから きいた
あの いえをこわされるときのはなし
――ドンドンと かべをたたく きづちのおとが
むないた を たたかれるように いたかったこと
そのために おまえが びょうきしたこと
だが びょうきがなおってから そうぎがはじまると
おまえまで えんだんに はいのぼったこと
そのとき しんけいつうで ねていた おやじまでが
「ばあさん しっかりたのむぞ!」と はげましたということ…………
そんな かずかずの ものがたりをきいていると
おふくろよ
おれは ほんとに むぎめしが のどにつまったよ
ほんとに よのなかはかわったな と おもったよ
おふくろよ
おれは おまえもよくしってるとおり 五ねんまえ
かんどう どうようの しうちをうけて
おまえたちや むらのやつから むらを おいだされた おとこだった
だが おふくろよ
だが いまでは むらのやつも おまえたちも
みんな このおれを したしくむかえてくれたのじゃなかったか
かわったな おふくろよ
おれは どんなきもちがしたとおもう?
おれは なみださえにじみでたぞ
それはなんのためだ?
みんな びんぼうのためじゃないか
びんぼうは むらのやつらをも おまえたちをも みんなかしこくしたのだぞ…………

おれは しょうじにはった ねまきのまえで かぜをさけながら
やしきのあとにできたという みごとな だが かべつちのにおいのする
(もっとも はじめは しょうゆ の わるい せいかとおもったのだが)
はっぱ の しおからいやつで ちゃづけを かきこみながら
みかんばこ か なにかのなかに おさまっている
せんぞ の いはい を みつめながら
いよいよおれは おれのしょうがいの かくごをきめたのだ
むろん そのかくごではいたのだが
そのとき ほんとに ハッキリと けっしんがついたのだ
もう おまえたちまで おれのみかただ
おれのしごとに みんなよろこんでいてくれる
そうおもったのだ
おれは ちからがわいてきた
おれは だから おおいそぎに そのばん かえってきてしまったのだ

おふくろよ
おれたちのしごとは いのちがけだ
だがおれたちは ただじゃ しねねえのだ
おまえたちも そちらでたのむぞ
おれたちは ちみどろだ
おたがいに いつやられるかしれねえが
やッつけるか やッつけら…

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