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花に送られる
はなにおくられる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「詩精神」1935(昭和10)年6月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2014-06-21 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


小金井の桜の堤はどこまでもどこまでもつづく
もうあと三四日という蕾の巨きな桜のまわりは
きれいに掃除され、葭簀張りののれんにぎやかな臨時の店店は
花見客を待ちこがれているよう

私の寝台自動車はその堤に添うて走る
春めく四月、花の四月
私は生死をかけて、むしろ死を覚悟して療養所へゆく
すでに重症の患者となった私は
これから先の判断を持たない
恐らく絶望であろうとは医師数人の言ったところ
農民の家がつづく
古い建物が多く
赤や桃色の椿が咲く、家も庭も埋めるごとく
今満開の美しい花々
桜の満開のところがある、八重の桜も咲いている

自動車は花あるところを選ぶ如く走る
花に送られて療養所に入る私を
療養所のどの寝台が待っているか
二度と来ぬわが春とは思われる。春はおろか
この秋までも、誰かこの生命を保証する
私は死を覚悟の眼で美しき花々の下を通ってゆく
(一九三五年五月十四日作『詩精神』同年六月号「今野大力特輯」に発表『今野大力・今村恒夫詩集』改訂版を底本)



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