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嵐の中で
あらしのなかで
副題――伊井千歳に贈る――
――いいせんぞうにおくる――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「詩人」1936(昭和11)年9月号
入力者坂本真一
校正者フクポー
公開 / 更新2018-06-12 / 2018-05-27
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


嵐は今日も街々をかけずりまわっている
君は一度でもこの嵐の原因について
考えたことがあるんですか
それよりも もっと もっと
大きい嵐について
もっと現実的な
人と人とのつながりにおいて
人間個々において
人類全体において
水平線的な 風雨の原因について――
嵐の日の何もできない一日を
じっと反省の思惟にふけるがいい
君はきっと
希望の駿馬にまたがり
倫理の手綱をにぎることができるのだ

君はそのつぶらな瞳を輝かせるがいい
その瞳は星をあおぎ
詠嘆に曇らせてはいけない
君が今立っている地上
一尺平方周囲から観察すべきである
そして 一尺一尺拡大してみるがいい
君はそこで自分一人の
環境の愚痴はこぼせまい
君と同じ生活の
君以下のどぶ泥にもがいている女性の
二人の三人の六人のかぞえきれないほどに
日本 最初の最後の女性として 人間としての
あえぎを あえいでいるではないか
嵐の後の草木が頑強に大地をふまえて
生きぬいているではないか
弱い葉ッぱと枯枝は
無惨にもふきちぎられている
強くなれ 強くなれ と
はんらんして河は呼びかけている
一滴一滴の水が集り集って
大きな力で動いているではないか

光りは闇より
良心の悩みこそ
輝く未来への掛橋でなければならない
一夜 嵐にさいなまれた
バラスの道を眺めるがいい
ごみとあくたは洗われて
今朝は まさごまさごの本性が
色とりどりに ほほえんでいる
きたわれ きたわれた もののみが
生きる
喜びの
青天に
青葉 青葉を
かざしている
根をはっている
(『詩人』一九三六年九月号に発表)



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