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馬鈴薯階級の詩
ばれいしょかいきゅうのうた
作品ID54086
著者中島 葉那子
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「北緯五十度詩集」北緯五十度社、1931(昭和6)年11月
入力者坂本真一
校正者Juki
公開 / 更新2013-08-19 / 2015-08-29
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

馬鈴薯階級の詩 (一)

カマドガヤシの白い穂が
雪の様に飛ぶ十一月の野良で
仁平はおっかあや娘と仕事着の尻、枯っ風にひったくられ乍ら
馬鈴薯選別して俵につめていた。
もうこうなっては、安くとも高くとも売ってしまわねばシバレテしまう。
雲間を飛ぶ淡い月の光をあてに
空腹にゆるんだモンペのひも〆なおして
さて、今夜もよなべ、

疲れて這う様にして小屋に帰り、
黒い麦飯とナッパ汁かっ込んで
仁平はいろりのはたで生活の重圧に曲った腰をさすり乍ら考えた
薯十六貫俵がたった八十銭。
地代と肥料代差引いたらあとに何が残るかよ
おっかあはあんまり馬鹿臭いから埋めといて春までまったらと言うけんど
年貢と税金だけは食わんねいでいてもおさめんにゃなんねい。
何が 何でい
人間並以上に働きつづけてそれでも食えないってのは俺の責任じゃねいや。
仁平はおこりっぽくいろりの中につばを吐いて
ゴロリと横になった
石油のつきたランプの灯が次第に暗く
おっかあも娘もいろりのはたに寝そべったまんま、
果しなく疲れていった。

馬鈴薯階級の詩 (二)

暮れ果てた暗が白々と明るんで来た
今、二十日の月が上るのだ。
おとしがらの蔭に枯っ風をさけて
集ったほほかむり達、
引ぬいて来た生大根の青首にかじりついてる。
空腹に大根は梨の様に甘かった。
「あんまり食べると流産するぞ」
「馬鹿にするない馬じゃあるまいし」
「馬だよこんなもの食う奴は」
元気な笑いを爆発させて
夜中過ぎまでかかる夜業の腹ごしらえだ。
かぼちゃにる時間の余裕すらない
慌ただしい仕事に追われて働きつづけて
さて一俵二円七拾銭の大豆売ったところで
食って行けると思うのか 一たい
「昨日来た乞食俺よりいいなりしていたな」
「そんならこんな仕事まくりやめてみな乞食になれ」
彼等は腹の底から突き上げて来る憤怒をぐっとおさえて
何気なく笑い合っていた。

みんな、みんなどん底へ落ちるがいい
どん底へ足のとどいた者達は
遂に立つ事が出来るのだ。

馬鈴薯階級の詩 (三)

つくづくと人間並の暮しがしたいと思った
それは自分達の生活が人間並でないからの事。
朝っぱらから雨に降られて
外の仕事の出来ない日
馬小舎の隅で馬糞の匂いにむされながら
俵を編んでいると
疲れ切った体からのそのそと眠気が這い上って来る
久しぶりの雨だと云うのに
半日の休みもなく
此の世に許された唯一の楽しみであるかの如き
睡眠をすら欠いたはげしい労働の日々
その報酬として受取るものは何か!
相変らずの貧乏と過労!
寒気と 飢
来る年も 来る年もマイナスばかり貧困の中に
一生を果してくちてゆく父母
それがやがて来る
未来の自分達の姿ではないか。

つくづく人間並に生きたいと思った。
こうした生活への要求が
遂に私に不屈な反逆を教えた。
それは誤まられた組織の上に
正しく人生を生…

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