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サガレンの浮浪者
サガレンのふろうしゃ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」 新日本出版社
1987(昭和62)年6月30日
初出「詩人」1936(昭和11)年4月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-12-11 / 2015-09-01
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

ただようてくる温ったかい三平汁の香
堪え兼ねて牧草の束に顔を埋める
しのびよる背筋の冷さ
浅い眠りの夢は破れる
ああ! 一杯の飯を食いたい

赤い毛布を巻きつけた むくんだ足
寒気は骨の中まで突き通す
伸び放題の鼻ひげに
呼吸は霜をたくわえ
鼻孔はきんきんとひからびる

破目板の隙間から躍り込む風
小屋に舞う雪神楽
やがて粉雪はうず高く層を重ねる
辛うじて乾草の小屋に宿り
打ち震え闇の中に聞く
猛けるサガレンの夜の吹雪

凍れる大地の呻きを聞き
凍傷の指先にガンジキの紐結び
北極星の白い光を仰ぎ見た幾夜か
たった一尾の干鱈を盗む為に
野良犬のように漁場の闇に足音忍んだ
沢の百姓のささくれた手から馬鈴薯貰い
露命支えた幾日であったか

とど えぞの生え繁る山々
深い熊笹の峯々
背丈より高い蕗の密生する沢の湿地で
****た棒頭の**が嚇し続ける
豊真鉄道工事場で精根枯らして働き倒れる章魚人夫

朝霧が山襞に立ちこめる頃
露に光る虎杖の群落踏み折り現場へ送られ
鶴嘴とスコップと畚と
口汚ねえ棒頭の罵声と
びんたと棒に追い捲くられ
星屑戴いて飯場へ戻る裸体の章魚人夫

片言の日本語 一言云うた
――ヤボ! 返事ぬかすか生いうか
棒頭の拳が唸り
へたへたと草の上にへたばった朝鮮人 金
吹きだす二筋の血汐
ぶち折られた前歯
唯 ぎろりと睨み返す
終業が他の現場より遅いと云うただけなのだ
流れる鼻血に怯え声挙げて泣きだした少年金の弟

嶽土を掘り崩しトロで運び
山のどてっ腹へ風穴開ける
雲突く橋脚の足場組立
縄を結んで丸太つたう瞬間
ぐらつく頂上から芋虫の様に転落した仲間
叩きつけられ腹は裂け
おんこの幹に肉片が散らばった
血は倒れた蕗の葉に生臭い斑点を浴せ水溜りにとけた
不様に潰れた肉体が土饅頭と変り果て
雑草の根にからまれ白骨となってしまっても
あいつの肉親は何も知る事は出来ない

シベリア嵐が丸太小屋を揺がし
軒の氷柱が伸びては太り
節くれだっては崩れ落ちる章魚部屋で
白樺の根っこいぶらし
若芽と馬鈴薯、塩鱒の汁も食い倦きて
又来る南樺太の四月
兎は残雪の谷間に木の芽立ちをさがし
野地だもの梢もふくらんだ
雨が雪をとかし夜の寒気に又凍れるサガレンの春
未だ絞り残した肉体が俺達にはあったのか
古い仲間と欺されて来た新しい章魚と
砂と岩石と土埃と
棒頭の**と

日を追うて枕木の数はふえ鉄路は伸びた
隧道は骨をしゃぶって口を開け
鉄橋は血をすすって谷を跨いだ
章魚は建設車で奥地へ送られ
土砂を担い崖土を崩し
岩盤砕きトロッコを押し
俺達の足が折れ
腕が千切れ
盲目となり
血へどを吐いて棒頭の**を頭で殴った

毛だらけの腕振り廻し喧嘩する俺の相棒
鶴嘴の利く事が得意で
トロを威張り指で五寸釘曲げて力む
――俺の肋骨一枚骨だで弾丸だて通らぬサ
夜の飯場で胸板ひろげる奴

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