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『思ひ出』序
『おもいで』じょ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「太宰治全集11」 筑摩書房
1999(平成11)年3月25日
初出「思ひ出」人文書院、1940(昭和15)年6月1日
入力者小林繁雄
校正者阿部哲也
公開 / 更新2012-02-11 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

所收――「思ひ出」「ダス・ゲマイネ」「二十世紀旗手」「新樹の言葉」「富嶽百景」「餘瀝 近事片々」

「思ひ出」
 けふまで創作集が五册出てゐるから、それぞれの出版主にお願ひして、一册から一篇づつ拔き取ることを許してもらつた。
「思ひ出」は、昭和七年に書いた。二十四歳である。自分を、「いい子」にしないやうに氣をつけて書いた。その翌年、「海豹」といふ同人雜誌に三囘にわけて連載した。
 これは、砂子屋書房版「晩年」の中に編入されて在る。「晩年」は、私の第一創作集である。なるべく、併讀していただきたい。

「ダス・ゲマイネ」
「ダス・ゲマイネ」は、昭和十年に書いた。二十七歳である。
 Das Gemeine は、通俗性の意である。人の心の奧底に必ず、巣食つてゐるものである。同年、文藝春秋に發表した。これは、新潮社版「虚構の彷徨」の中に編入されて在る。あまり賣れなかつたやうである。出版部の長沼さんも、氣の毒がつて居られた。

「二十世紀旗手」
「二十世紀旗手」は、昭和十一年に書いた。苦しまぎれに書いた。むきなものも、こもつて在ると思ふ。翌年度の、改造新年號に發表した。
 これは、版畫莊文庫「二十世紀旗手」の中に編入されて在る。當時、私に就いての惡評を意とせず、私の創作集を默つて出版してくれた版畫莊主人の厚意は、いまも忘れてゐない。

「新樹の言葉」
「新樹の言葉」は、昭和十四年に書いた。からだも丈夫になつた。すべて新しく出發し直さうと思つて書いた。言ふは易く、實證はなかなか困難の樣子である。
 これは、竹村書房版「愛と美について」の中に編入されて在る。「愛と美について」には、五つの創作が收められてゐるが、五篇とも、どの雜誌にも發表しないで、いきなり單行本として出版したのである。前例の少い事と思ふ。私のわがままを許容して、そのやうな冒險を敢へてしてくれた竹村書房主に、あらためて禮を言ひたい。

「富嶽百景」
「富嶽百景」は、昭和十四年に書いた。スケツチの連續である。同年、純文藝册子、「文體」に二囘にわけて發表した。
 これは、砂子屋書房版「女生徒」の中に編入されて在る。砂子屋書房の山崎さんには、第一創作集の時から、實に世話になつた。これからも、世話になるかも知れない。
 之等、五つの小説は、決して傑作では無い。けれども、「思ひ出」といふ標題を打つて、一本にまとめてみると、自らまた別の感慨も湧くのである。きのふ迄の、三十年の生涯の、冗談でない思ひ出になつてゐるのである。

「餘瀝 近事片々」(「正直ノオト」「春晝」「市井喧爭」「酒ぎらひ」「困惑の辯」「知らない人」「心の王者」「鬱屈禍」)
 以上の五篇の創作にて、私のこれまで歩いて來た經過の、だいたいは、推察していただける事と思ふ。けれども今この五篇のみを纏めて一本としようとしても、これだけでは、どうやら枚數に於いて不足の…

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