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金の輪
きんのわ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「小川未明童話集」 新潮文庫、新潮社
1951(昭和26)年11月10日
初出「読売新聞」1919(大正8)年1月21日~23日
入力者
校正者小林繁雄
公開 / 更新2012-01-02 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 太郎は長いあいだ、病気でふしていましたが、ようやく床からはなれて出られるようになりました。けれどまだ三月の末で、朝と晩には寒いことがありました。
 だから、日のあたっているときには、外へ出てもさしつかえなかったけれど、晩がたになると早く家へはいるように、おかあさんからいいきかされていました。
 まだ、さくらの花も、ももの花も咲くには早うございましたけれど、うめだけが、かきねのきわに咲いていました。そして、雪もたいてい消えてしまって、ただ大きな寺のうらや、畑のすみのところなどに、いくぶんか消えずにのこっているくらいのものでありました。
 太郎は、外に出ましたけれど、往来にはちょうど、だれも友だちが遊んでいませんでした。みんな天気がよいので、遠くの方まで遊びに行ったものとみえます。もし、この近所であったら、自分も行ってみようと思って、耳をすましてみましたけれど、それらしい声などはきこえなかったのであります。
 ひとりしょんぼりとして、太郎は家のまえに立っていましたが、畑には去年とりのこした野菜などが、新しくみどり色の芽をふきましたので、それを見ながら細い道を歩いていました。
 すると、よい金の輪のふれあう音がして、ちょうどすずを鳴らすようにきこえてきました。
 かなたを見ますと、往来の上をひとりの少年が、輪をまわしながら、走ってきました。そして、その輪は金色に光っていました。太郎は目を見はりました。かつてこんなに美しく光る輪を見なかったからであります。しかも、少年のまわしてくる金の輪は二つで、それがたがいにふれあって、よい音色をたてるのであります。太郎はかつてこんなに手ぎわよく輪をまわす少年を見たことがありません。いったいだれだろうと思って、かなたの往来を走って行く少年の顔をながめましたが、まったく見おぼえのない少年でありました。
 この知らぬ少年は、その往来をすぎるときに、ちょっと太郎の方をむいて微笑しました。ちょうど知った友だちにむかってするように、なつかしげに見えました。



 輪をまわして行く少年のすがたは、やがて白い道の方に消えてしまいました。けれど、太郎はいつまでも立って、そのゆくえを見まもっていました。
 太郎は、「だれだろう。」と、その少年のことを考えました。いつこの村へこしてきたのだろう? それとも遠い町の方から、遊びにきたのだろうかと思いました。
 あくる日の午後、太郎はまた畑の中に出てみました。すると、ちょうどきのうとおなじ時刻に輪の鳴る音がきこえてきました。太郎はかなたの往来を見ますと、少年が二つの輪をまわして、走ってきました。その輪は金色にかがやいて見えました。少年はその往来をすぎるときに、こちらをむいて、きのうよりもいっそうなつかしげに、ほおえんだのであります。そして、なにかいいたげなようすをして、ちょっとくびをかしげまし…

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