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小曲二十篇
しょうきょくにじっぺん
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「沖縄文学全集 第1巻 詩Ⅰ」 国書刊行会
1991(平成3)年6月6日
初出落葉のなげき「琉球新報」1909(明治42)年3月4日<br>物の哀れ「琉球新報」1909(明治42)年3月4日<br>まぼろし「琉球新報」1909(明治42)年3月4日<br>春「琉球新報」1909(明治42)年3月6日<br>朝「琉球新報」1909(明治42)年3月6日<br>望郷「琉球新報」1909(明治42)年3月6日<br>小曲「琉球新報」1909(明治42)年3月8日<br>海のさち「琉球新報」1909(明治42)年3月8日<br>北半島「琉球新報」1909(明治42)年3月8日<br>秋「琉球新報」1909(明治42)年3月10日<br>口笛「琉球新報」1909(明治42)年3月10日<br>片葉貝「琉球新報」1909(明治42)年3月12日<br>哀音「琉球新報」1909(明治42)年3月12日<br>夜「琉球新報」1909(明治42)年3月15日<br>影「琉球新報」1909(明治42)年3月15日<br>白明「琉球新報」1909(明治42)年3月15日<br>漁夫「琉球新報」1909(明治42)年3月19日<br>人ふたり「琉球新報」1909(明治42)年3月19日<br>森「琉球新報」1909(明治42)年3月28日<br>海「琉球新報」1909(明治42)年3月28日<br>星「琉球新報」1909(明治42)年3月28日
入力者坂本真一
校正者良本典代
公開 / 更新2017-09-29 / 2017-08-25
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

落葉のなげき
よする年波とゞめかねず、
われや落葉あわれ淋し。
名知れぬ浜に流れ漂ひ、
朽つるその日あやめわかぬ。

白く冷たき浪のたわれ、
目的知らねば運命のまゝに、
浮きつ沈みつ夜を日にかへし、
息む隙なき道のつかれ。

暗らき浮き世をたどる心、
なほもなごめる恋し草びら、
岸に匂へる色を見れば、
すてゝ立ち去る思ひたえじ。


物の哀れ
道をあゆむに痛みつかれ、
「命」淋しく胸に雫き、
想ひ静かに果てを観ず、
鳥の調べに眼うるみ、
花にそゝぎしもろき涙、
若かき岸辺をさかりゆきぬ。

物の哀れを悟る今宵、
窓にさしこむ星の光、
やせし憂ひの琴を渡る。


まぼろし
おぼろに映るものゝかげ、
うれしと見れば悲しげに、
只だかきくるゝ静心。

いたく乱るゝ黒髪に、
嘗てはかゝる夢なれど、
今はたいかに――滅えさりぬ。

あゝカナ/\や鳴く虫に、
静か心もあたふたと、
綾目うすれて西さがる。



春は来にけり、きさらぎの、
風かぐはしく吹き過ぎて、
春の弾く音に、春の歌、
心くまなくうるほひぬ。

また喜びは眼にうつり、
愛なる土地のうらやすに、
うつら/\の夢枕、
かつぐ貌の花衣。

昼は静けき窓のうち、
心の絃にたちかへり、
夜はよもすがら胸のうへ、
あえかの夢を吹きおくる。



朝なり、やがて君と吾れ、
二つにさかる悲しさよ。
冷たき鐘のゆさぶりに、
心の淵のからさわぎ。

人のこの世にめでたきは、
只だ夫れ春よ、愛なれど。

涙ににじむ心中の、
辛らきなごりにかへがたし。


望郷
落日々々…………、
独りたゝづむ名知れぬ浜辺、――
悲し海原生れの故郷。

翼なき身の只だ茫然と、
入日うすれて、悲哀のしらべ、
海のかなたへかすめて去りぬ。

かくて幾夜を故国の夢に、
こがる心は、そこゐも知れぬ、
暗路たどりて闇夜に沈む。


小曲
春の日の空はみどりに、
地は花に匂へる時を。

眼はうすき光にぬれて、
あたゝかき思ひすゞろぐ。

やはらかき耳かたむけば、
吾はきく、ああ吾が胸に、

懐かしき、悲しき曲の、
滴りを――かすけき声を。


海のさち
なだれの夕日をまともに浴びて、
椰子の樹棕梠の樹たわゝに実のる、
入江の汀にならべもたてし、
島人どもが一日の獲物。

深海の底より拾ひ得しは、
阿古屋、真珠の白金真玉、
はたまた珊瑚の宝をかさね、
海にも山にもとこめづらしき。

宝の分与心にたれば、
やさしき妻子と手に手をとりて、
なつかし南の調べを唄ひ、
各々別れて誼をまもる。


北半島
力なければ、埋もれて、朽ち果つべしと、
かねて知り、綾目うするゝ北の国。

代々の血染のその歴史、あな惨ましき、
民族の、心にもるは闇の色。

生きんとすれば、物うげな牙さしむくる、
やからもの――忍辱守るに道はなし。

愛の絃かけ弾きならす、心さへなき、
や…

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