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上方者の啖呵
かみがたもんのたんか
作品ID54490
著者村上 浪六
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本随筆紀行第一七巻 大阪|和歌山 声はずむ水の都」 作品社
1987(昭和62)年1月10日
入力者浦山敦子
校正者岩下恵介
公開 / 更新2017-12-01 / 2017-11-24
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 おツと大将、そこぢやて、江戸ツ子はンの間違ひ、いつも其処ぢや、いかにも上方もンは銭勘定が高い、高いがな、そりや日用の生活費か、但し商売上の算盤づくで、てンから帳面に上せて遊びと来たら、はゝゝゝ失礼ぢやが、迚も東京の人の真似の出来るこツちやない、全体この東京で気が大きいとか、金放れがどうとかいふのは、まづ五円ぐらゐから十円位までの事、お気の毒やが少し手荒いところで、精々二三十円から、六十円、もう百円となれば江戸ツ子はン、ちと困るなア、はゝゝゝよし一夜に二百円ぐらゐ使ふ人もあるやろ、あるやろがな、しかし後が続きまへンぜ、この腰の弱い鼻頭の強い空威張の東京人間が、どう考へても、その全盛を其まゝいつまで根気よく続く筈がおまへン、放蕩は自慢にならンが、月千円づつ費うて丸三年も続けば、この東京で随分、えらいもンになれまンな、はゝゝゝゝちよろ臭い、三円の料理を喫べて六七十銭の釣銭は入らないよ、なンかンて、あほらしい、そンな小さい一時の眼の前ばかりへ勇み肌で、仕込の薄い花火ぢやないが、しゆツと出て、しゆツと消えるやうなもンぢや、年が年中、同じ茶屋で十五年の間、遊び続けたの、いや三十年も来るといふのは大阪で、あンまり珍しうおまへンぜ、とかく上方はな、この東京と正反対で、一度に十円位までの奴は吝嗇れて汚ない、しかし一夜に二三十円以上の阿呆になると、これこそ小気味よう図抜けてゐまツせ、雪駄の裏金に小判を付けたり、三日目毎に襦袢から帯から羽織着物は勿論、身辺一切を呉服屋から仕立てさして一年半も続けたといふ奴、八畳敷に三盆白の砂糖を三尺嵩に積ンで月に三度づつ五十人の芸妓を丸裸のまゝ相撲を取らすといふたはけは、現に私の友達にあるこツちや、また放蕩の方は偖置いて、堅い方は事実、この東京で銀行は知らン事、二三万円の現金を十三四の丁稚小僧に持たして其まゝ使に遣る商人が数多おますか、五円紙幣一枚は袂へ紙屑のやうに捻ぢ込んでも、万円以上を豆腐か煎餅を買ひに遣るやうに心易う一人で出せますまい、そこは東京ぢや、江戸ツ子はン胆玉は知れてある、はゝゝゝどうでおます大将、ちと言ひ過ぎましたかな、



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