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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題286 美男番附
286 びなんばんづけ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二卷 白梅の精」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年4月5日
初出「讀切小説集」1952(昭和27)年10月捕物祭
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-01-13 / 2015-12-29
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、ウフ、可笑しなことがありましたよ、ウへ、へ、へツへツ」
 ガラツ八の八五郎が、タガの弛んだ桶のやうに、こみ上げる笑を噛みしめ噛みしめ、明神下の平次の家に入つて來ました。
「冗談ぢやない、人の家へゲラゲラ笑ひ乍ら入つて來やがつて、水をブツ掛けて、酒屋の赤犬をけしかけるよ」
「怒らないで下さいよ、あつしはまた、可笑しくて可笑しくて、横つ腹の筋がキリキリするほど笑つてゐるのに、親分はまた、何んだつてそんなに機嫌が惡いんで」
「盆も正月も無え野郎にはわかるめえが、今日は十月の晦日だ、先刻から何人掛け取を斷わつたと思ふ、こいつは洒落や道樂で出來る藝ぢや無えぜ」
「相濟みません、人の氣も知らねえやうですが、借金や掛けは拂はねえことに極めて居ると、思ひの外氣の輕いもので」
「呆れた野郎だ、だから叔母さんは、お前の尻拭ひで苦勞してゐるぢやないか、その氣だから三十にもなつて、まだ嫁に來手も、婿に貰ひ手もねえ始末だ」
「でも、もう少し放つて置いて下さいよ、女房を持つと、急に人間がケチになつて、爺々むさくなつて人に意見ばかりするやうになるから――おつと、親分のことぢやありませんよ、親分は女房持ちでも、パツパと――」
「お世辭なんか止せ、お前の柄ぢやねえ、ところで何がそんなに可笑しいんだ」
「へツ、その事、その事。あつしがいつまで獨りでゐるわけも、實は其處にあるんで、へツ、へツ、へツ」
「又笑ひ出しやがる、氣色の惡い野郎だ」
「實はね、親分、このあつしが、色男番附へ載つたんだから大したものでせう」
「色男番附? そいつは何處の國の番附だ、よもや日本ぢやあるめえ」
 八五郎のヌケヌケした報告に、さすがの平次も膽をつぶしました。名物の顎を二三寸切り詰めたところで、これは色男といふ人相ではありません。
「日本も日本、江戸の眞ん中、神田向柳原で、洒落れた野郎が『息子番附』といふのを拵えましたよ。表向は『息子番附』だが、内々は『美男番附』の積りでね。尤も去年は外神田の『娘番附』といふのを拵へ、瓦版にしてバラ撒いたのがありましたよ。そいつは師匠の文字花と、水茶屋のお幾が、自分達を東西の大關に据ゑる細工に、うんと金を費つてやつた仕事とわかつて、大笑ひで濟みましたが、今度は向柳原一圓の若い者が集まつて、相談の上極めた番附だから、間違ひも胡麻化しもありやしません」
「物好きなひとだな」
「今月は顏見世月で、芝居町の方も大變な景氣だから、此方でも一番素人芝居でも打つて、江戸中の娘達の人氣をさらつてやらうといふ相談で、先づ手始めに拵へたのが『息子番附』その實は『美男番附』その中から、立役も女形もきめようといふ寸法で」
「で、その番附は?」
「東、大關は佐久間町の酒屋、丹波屋の伜清次郎、西の大關は棟梁乙松の伜で辰三郎、東の大關は、米屋の下男で鶴吉――」
「番附を一々讀上げられちやたまらない、…

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