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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題275 五月人形
275 ごがつにんぎょう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第三卷 五月人形」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年4月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1952(昭和27)年4月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-12-06 / 2015-09-07
長さの目安約 41 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、世間はたうとう五月の節句となりましたね」
 八五郎が感慨無量の聲を出すのです。
「世間と來たね、お前のところは、五月節句が素通りすることになつたのか」
 平次は退屈さうでした。この十日ばかりは小泥棒と夫婦喧嘩位しか無く、平次の見張つて居る明神樣の氏子は申す迄もなく、江戸の下町一帶は、まことに平穩無事な日が續いて居りました。
「あつしも男の子でせう、それに間違ひもなく獨り者だ。鯉幟や五月人形の贅は言はないが、せめては柏餅位にありつけないものかと朝つから二三軒、男の子のありさうなところを當つて見ましたが――」
「さもしい野郎だなア、生憎おれのところもお祝するほどの男の子は無えが、謎を掛けられて、季節の物を喰はせねえほどのしみつたれぢやねえ。おい、お靜、表の餅屋へ行つて、柏餅を總仕舞にしてな、臍が欠伸するほど八の野郎に喰はせてやるが宜い」
 平次はお勝手に居るお靜に聲をかけました。
「じよ、冗談ぢやありませんよ、そんな人の惡い謎々なんか掛けるもんですか、あつしだつて、柏餅を買ふお鳥目位はありますがな、大の男が餅屋の店先に突つ立つて頬張るのも色氣が無さ過ぎると思つて、ツイ獨り者らしい愚痴を言つたんですよ」
「喰ひ氣ばかりかと思つたら、色氣もあるんだな、お前は。ま、安心しねえ、お靜は氣が小さいから、柏餅を一兩と買つて來る氣遣けえはねえ」
 平次は前掛を帶に挾んで路地の外へ驅け出して行く、お靜の後ろ姿を見乍ら、太平樂を言つて居ります。
「ところでね、親分、近頃變なことがあるんだが」
「また變なことがあるのか」
「五月人形に怨があるのか、方々に人形荒しがあるんですよ」
「人形荒しといふのは聽いたことがない話だな」
「いづれ、男の子に死なれて、氣が變になつた者の仕業でせうね」
 八五郎はそれでもローズものゝ叡智を働かせたりしました。
「何處と何處だ?」
「大傳馬町の木綿問屋の伊勢屋、村松町の大黒屋、本町二丁目の呉服屋で田島屋、――皆んな金のあり餘る大店で、――そんな事は内證にして置き度いでせうが、人形荒しなどは珍らしいから、若い奉公人の口からすぐ漏れて、半日經たないうちに、あつしの耳へ入りますよ」
「で、盜まれた物は無いのか」
「何んにも盜まれなかつたやうで」
「フーム」
「金太郎の腹掛を[#挿絵]つたり、鐘馗樣の首を拔いたり、散々の惡戯ですが、物を盜つた樣子はありませんね」
「縁起物の人形をこはすのは、太々しいやり方ぢやないか」
 平次は苦々しがります。さう言つた性の惡い仕事は、妙に癇にさはるのでせう。
「あつしの聽いたのは三軒ですが、外にもあるかも知れません、少し調べて見ませうか」
「無駄だらうよ、何處の親も隱したがるだらうから」
「でも」
「それより、その人形を買つたのは何處で、細工は誰か、一應訊いて見てくれ。金持だけがやられたのなら、いづれ細工の良いも…

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