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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題270 転婆娘
270 てんばむすめ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第三卷 五月人形」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年4月20日
初出「實話と読物」1951(昭和26)年11月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-11-08 / 2015-10-02
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「八、その十手を見せびらかすのを止してくれないか」
「へエ、斯うやりや宜いんでせう。人に見せないやうに」
 親分の平次に言はれて、ガラツ八の八五郎はあわてゝ後ろ腰に差した十手を引つこ拔くと、少々衣紋の崩れた旅疲れの懷中にねぢ込むのです。
「だらしがねえなア、房が思はせ振りにハミ出して居る上に、十手の小尻が脇の下に突つ張つて居るぢやないか」
「へエ、まだいけませんかね」
「此處は江戸の眞ん中ぢやねえ、武州忍、阿部豊後守樣十萬石の御城下だ、そんな風をして、後生大事に懷中を押へて歩くと、請合牛蒡泥棒と間違へられる」
「冗談でせう、いかに武藏の國だつて、房の附いた牛蒡なんてものは、ありやしませんよ」
 平次と八五郎は、郊外の秋色を愛で乍ら――といふと洒落れて聞えますが、實は川越在の名主、庄司忠兵衞の餘儀ない頼みで、十五里の道を、ブラリブラリと二日がゝりで、町から三里ばかり、赤トンボとイナゴに迎へられ乍ら、どうやら陽のあるうちに、目的の家に着いたのです。
 迎へてくれたのは、主人の忠兵衞五十二三、分別者で評判の良い中老人ですが、田舍名主らしく何んとなく權高なところがあります。でも、事件は獨り娘の生命に關はることで、さすがに見識も見得もかなぐり捨て、
「や、錢形の親分、待つて居ましたよ、遠いところを、飛んだ無理を言つて――」
 などと如才もありません。
 足を洗つて奧へ通されると、内儀のお縫が待ち構へて、お茶よ、お菓子よとあわたゞしいことです。
「それより、先づ、お孃さんが、姿を隱したといふ一埒を承りませう。なアに、疲れたと言つてもたつた十五里の道を、二日で歩いた遊山旅で、時候が良いから、ろくに汗も掻きやしません。この野郎がイキの惡い金魚見たいに、口をパク/\させてゐるのは、少し腹が減つてるだけのことで」
 八五郎の表情を讀んで、平次は遠慮のないことを言ふと、
「それは氣が付かなかつた、陽の暮れるのを待つて一杯つけ乍らと思つて居たが、それぢや兎も角も」
 主人の忠兵衞が指圖すると、内儀のお縫がお勝手へ飛んで行つて、何が無くとも冷飯に炙り魚、手輕な食事になつてしまひました。
 その間、耳と口が一緒に働いて、名主の娘お吉が行方不知になつた事件が、父親忠兵衞と、母親お縫の口から、細かに説明されて行くのです。
 娘のお吉は親の口から保證する通り、鄙に稀なる美しいきりやうでした、年は十九、厄が明けたら、隣村の大地主の總領に、嫁入りさせることになつてゐる矢先、神隱しに逢つたやうに、フと姿を隱してしまつたのです。
 それは數へて丁度十日前のこと、鎭守樣の裏に、小屋掛をしてゐる芝居の見物に行き、下女のお松と二人、芝居がはねて木戸を出たことまではわかつて居るが、その時木戸に溢れた人波に隔てられて、姿を見失つたまゝ、お吉はその晩も、その翌る日も、そして十日待つても歸らなかつたのです。…

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