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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題295 万両息子
295 まんりょうむすこ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第四卷 からくり屋敷」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年5月10日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1953(昭和28)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-01-04 / 2015-12-29
長さの目安約 32 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「世の中には變つた野郎があるものですね、親分」
 ガラツ八の八五郎は、又何やら變つた噂を持つて來た樣子です。
「大抵の人間は、自分は世間並より變つた人間だと思つて居るよ」
 錢形平次は、相變らず、はなつから茶化してかゝります。
 結構な冬日向、何が無くとも豆ねぢに出がらしの番茶、お靜は目立たぬやう、そつと滑らせてお勝手に引下がると、晝下がりの陽を膝に這はせて、八五郎の話は面白く彈むのです。
「深川入船町の鍵屋源兵衞――親分も御存じでせうね」
「大層な身上だつてね、生憎親類でも何んでも無いが、明暦の大火でうんと儲けて、江戸一番の材木屋になり、その上苗字帶刀を許されて、日光山の御用も勤めると聽いたが」
 錢形平次もそれはよく知つて居ります。後の世の奈良茂、紀文と共に、百萬兩の富を積んだといふ、江戸暴富傳中の一人です。
「その伜が噂の種で、深川中で知らないものはありやしません――廣い江戸にも、あんな息子は二人とはあるまいと――」
「親孝行でもするのか」
「飛んでもない、金持の子に孝行息子なんかあるものですか、何しろ甘やかし放題に育てたのが、年頃になつて遊びを覺えたからたまりませんよ、辰巳藝者を總嘗めにして、此節は吉原まで荒し廻る」
「達者だな、名は何んといふんだ」
「万兩さんで通つてますよ、万兩分限の息子だから万兩息子、はつきりして居まさあ、尤も親のつけた名は、半次郎といふんで、人間が半端だから半次郎、これも理詰めで」
「話はそれつ切りか、金持の馬鹿息子が、馬鹿遊びをしたところで、俺は可笑しくも面白くもないよ」
 平次は相變らず氣の乘らない樣子です。
「それが一と通りの女遊びぢや無いんで、係り合つた女といふ女、華魁も新造も、藝子も素人衆まで、一々二の腕に、自分の名を彫らせるといふから、大したものでせう」
「一人の客に名前を彫られちや、商賣人は上つたりだらう」
「そこが、それ金の有難味ですよ。身請をするほど金を積むと、大抵の女は、イヤとは言はないさうですよ、その彫つた後が落着くと、すぐ灸で燒切る」
「熱い商賣だな」
「あの世界には、女に小指を切らせる虐たらしい男だつてあるんだから、刺青なんか優しい心中立かも知れませんね」
「その万兩息子は、さぞ良い男だらうな」
「ウ、フ、お目にかけ度い位、冬瓜を水ぶくれにして、[#挿絵]の袷を着せて、オホンとやらかすと、丁度あんな工合」
「手數のかゝつた色男だな」
「眉毛が薄くて、有るか無きかのお團子つ鼻で、二十歳の白雲頭で、青瓢箪で、赤眼で」
「まるで五色息子だ」
「その上五尺八寸といふのつぽで、足袋は十三文半甲高、鼻へ拔ける甘酢つぱい聲、大變な息子ですよ、――尤も力もあつて、腕も出來る」
「そんなのは友達にしたくないな」
「ところが費ひ切れないほど金があるから、何處へ行つても業平朝臣の御通りで御座いだ」
「たまらねえな」

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