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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題046 双生児の呪
046 ふたごののろい
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第六卷 兵庫の眼玉」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年6月10日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1935(昭和10)年12月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2015-07-11 / 2015-06-09
長さの目安約 34 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、お願ひがあるんですが――」
 お品は斯う切り出します。石原の利助の一人娘、二十四五の年増盛りを、『娘御用聞』と言はれるのはわけのあることでせう。
「お品さんが私に頼み――へエ――それは珍らしいネ、腕づくや金づくぢや話に乘れないが、膝小僧の代りにはなるだらう。一體どんな事が持上がつたんだ」
 錢形平次は氣輕にこんな事を言ひました。お品の話を、出來るだけ滑らかに手繰り出さうといふのでせう。何時でも、さう言つた心構へを忘れない平次だつたのです。
「お聽きでせう? 藏前の札差に強盜の入つた話を――」
「聽いたよ。たつた一人だが、疾風のやうな野郎で、泉屋の一家ばかり選つて荒して歩くといふ話だらう」
 二た月ほど前から虱潰しに泉屋一家を荒して歩く曲者、――どんなに要心を重ねても、風の如く潜り込んで、かなり纒つた金をさらつた上、障る者があると、恐ろしい早業で、大根か人參のやうに斬つて逃出す強盜のことは、平次もよく承知して居ります。
「お父つさんはあの通りのきかん氣で、身體が言ふことをきかないくせに、八丁堀の旦那方に小言を言はれると、ツイ請合つて歸つたのだ相です。――泉屋一家で、荒し殘されたのは、あとたつた二軒、それがやられる迄には、きつと縛つてお目にかけますつて――」
「――」
「今度逃がせば、十手捕繩を返上しなければなりません、どうしませう親分」
「成程、それは心配だらう。どんな手口だか私も知らないが容易の捕物ぢやあるまい」
「よく霽れた月の無い晩に限つて押込みます、今晩あたりも又何か始まるでせう。お父つさんは一人で威張つて居ますが、子分と言つても役に立つのは二三人――まさか私が出かけるわけにも行かず、素人衆は幾人手傳つて下すつても、本當に氣が廻らないから、何時でも網の目を脱けるやうに逃げられてしまひます。――親分に來て頂くと申分がありませんが、それでは又父さんが氣を惡くするかも知れず」
 お品は淋しさうでした。平次とすつかり融和して居るやうでも、利助にはまだ年配の誇りと、妙に頑固な意地があつたのです。
「氣のきかない話だが、俺も心配をしながら遠慮して居たのさ。――それぢや斯うしようぢやないか。あの通り欠伸ばかりして居るから、早速八の野郎を差向けて見よう。大した役には立つまいが、それでも素人よりは増しだらう。八五郎でうまく行かなかつたら、その時は俺が出て見るとしたらどんなものだらう、石原の兄哥へは、お品さんから――手不足で困るから、案山子の代りに八五郎を頼んで來たと言へば濟む――」
 平次はさう言ひ乍ら、ガラツ八の方を振り返りました。案山子と言はれたのが不足らしく、そつぽを向いて頤を撫でて居ります。
「さうして下されば、どんなに助かるかわかりません」
 お品はホツとした樣子で白い顏を擧げました。聰明さにも美しさにも、何んの不足もないお品を見ると、平次は、つ…

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