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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題003 大盗懺悔
003 だいとうざんげ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第九卷 幻の民五郎」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年7月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1931(昭和6)年6月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-04-23 / 2016-09-18
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 人間業では盜めさうもない物を盜んで、遲くとも三日以内には、元の持主に返すといふ不思議な盜賊が、江戸中を疾風の如く荒し廻りました。
「平次、御奉行朝倉石見守樣から嚴い御達しだ、――近頃府内を騷がす盜賊、盜んだ品を返せば罪はないやうなものではあるが、あまりと言へばお上の御威光を蔑しろにする仕打だ。明日とも言はず、からめ取つて來い――と仰しやる、何とか良い工夫はあるまいか」
 南町奉行付、與力筆頭笹野新三郎、自分とは身分が違ひ乍ら、親身のやうに思つて居る捕物の名人錢形の平次に、斯う打ち明けて頼み込みました。
「へエ、――私も考へないぢや御座いません。盜んで直ぐ返すといふやり方が第一氣に入りません。戀の附文、貧の盜みと言ふ位で、食ふに困つての盜みなら、惡い乍らも可哀想とも思ひます。盜んだ品を翌る日返すのは、盜みを道樂にして居る人でなきア、私共を飜弄て居るに相違御座いません、何とかしてあの野郎をフン捕まへなきア、錢形の平次も世間へ顏向けがなりません」
 平次は、日頃の穩厚な樣子にも似ず、ツイ拳固で膝を叩き乍ら、縁側の敷居際までにじり寄ります。
「お前がその氣なら、遠からず捉まへられるだらう――少しは心當りがあるだらうな」
「恥づかし乍ら、何の手掛りも御座いません」
「女泥棒だといふが、本當だらうな」
「それも當にはなりません。盜んだ品を返しに來るのは、目の醒めるやうな美しい新造だつて言ひますが、それが盜むにしちや、手際が良過ぎます」
「と言ふと」
「鍵や錠が苦もなく外すのは兎も角として、一丈も一丈二尺もある塀を飛越したり、長押を踏んで座敷へ忍び込んだり、とても女や子供に出來る藝當ぢや御座いません」
「フーム」
 笹野新三郎も、錢形の平次も、近頃人も無げに出沒する怪盜――風の如く去來するから世間では風太郎と言つて居りますが――には全く手を燒いてしまひました。
「たつた一つ、仕殘した手段が御座います」
「どんな事だ」
「謀事は密なるを要すつて申しませう。もう二三日お待ち下さいまし」
「ハツハヽヽヽ、平次は思ひの外學者だな」
「へエ――」
 苦味走つた好い男の平次も、笹野新三郎に逢つては頭が上がりません。



「親分」
「何だガラツ八か、騷々しい」
「ガラツ八は情けねえな、――御注進、御注進とお出でなすつたんで」
「氣取るな、一體何が何うしたんだ」
 平次は落着き拂つて、子分のガラツ八の顏を見上げました。
「昨夜風太郎が入りましたよ」
「何處へ」
「淺草の隆興寺」
「何を盜つた」
「本堂の奧のお厨子の中から三寸二分の黄金佛、大日如來」
「罰當り奴」
「親分、あつしが盜つたんぢやありませんぜ」
「手前に盜れる譯もねえやな、案内しろ」
「親分が行つて下さりや、ガラツ八も、心丈夫だ。斯う來なせえ」
「馬鹿にするな」
 藍微塵の素袷、十手を懷に隱して、突かけ草履、少し三…

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