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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題014 たぬき囃子
014 たぬきばやし
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十卷 八五郎の恋」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年8月10日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年5月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-05-08 / 2014-09-16
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、あつしは、氣になつてならねえことがあるんだが」
「何だい、八、先刻から見て居りや、すつかり考へ込んで火鉢へ雲脂をくべて居るやうだが、俺はその方が餘つ程氣になるぜ」
 捕物の名人錢形の平次は、その子分で、少々クサビは足りないが、岡ツ引には勿體ないほど人のいゝ八五郎の話を、かうからかひ氣味に聞いてやつて居りました。
 遲々たる春の日、妙に生暖かさが睡りを誘つて、陽が西に廻ると、義理にも我慢の出來なくなるやうな薄霞んだ空合でした。
「ね、親分、あつしは、あの話を、親分が知らずに居なさる筈はねえと思ふんだが――」
「何だい一體、その話てえのは? 横丁の乾物屋のお時坊が嫁に行つて、ガラツ八ががつかりして居るつて話ならとうに探索が屆いて居るが、あの娘の事なら、器用にあきらめた方がいゝよ、町内の良い娘が一人づつ片附いて行くのを心配して居た日にや、命が續かねえぜ」
「冗、冗談でせう、親分、誰がそんな馬鹿なことを言ひました」
「誰も言はなくたつて、錢形の平次だ、それ位のことに目が屆かなくちや、十手捕繩を預つて居られるかい」
「そんな馬鹿なことぢやねえんで――あつしが氣にして居るのは、親分も薄々聞いて居なさるでせうが、近頃大騷ぎになつて居る本所の泥棒――三日に一度、五日に一度、選りに選つて大家の雨戸を切り破る手口は、どう見ても人間業ぢやねえ。石原の親分ぢや心もとないから、いづれは、錢形の親分に出て貰つて、何とかしなきア納まりがつくめえ――つて、先刻も錢湯で言つて居ましたが、あつしもそれア其通りだ、うちの親分なら――」
「馬鹿野郎ツ」
 皆まで言はせず、平次はとぐろをほぐして日向へ起き直りました。
「へえ――」
「へえ――ぢやないよ、世間樣の言ふのは勝手だが、手前までそんな事を言やがると承知しねえよ」
「相濟みません」
「本所は石原の兄哥の繩張りだ、頼まれたつて俺の出る幕ぢやねえ。それに、石原の兄哥にケチなんぞ付けやがつて」
「――へエ、面目次第も御座いません」
「馬鹿だなお前は、何て恰好だい、借金の言ひ譯ぢやあるまいし、さう二つも三つも、立て續けにお辭儀をしなくたつてよからう。それに、膝ツ小僧なんか出してさ。一體お前なんか、そんな身幅の狹い袷を着る柄ぢやないよ――ウ、フ」
 平次も到頭吹出して了ひました。斯うなると、何の小言を言つて居たか、自分でも判らなくなつて了ひます。
「御免下さい」
 折から、入口の格子の外で、若い女の聲。
「八、ちよいと行つて見ておくれ、どうせお靜の客だらうが、生憎買物に出たやうだ」
「へエ――」
 ガラツ八の八五郎は、それでも素直に立上がつて今叱られたばかりの狹い袷の前を引張り乍ら縁側から入口を覗きましたが、何を見たか、彈き返されたやうに戻つて來て、
「親分、た、大變」
 日本一の酢つぱい顏をします。
「何だ、騷々しい」
「石原のが來まし…

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