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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題151 お銀お玉
151 おぎんおたま
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十八卷 彦徳の面」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年10月20日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1943(昭和18)年12月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-04-22 / 2016-03-04
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、變な事があるんだが――」
 ガラツ八の八五郎が、鼻をヒクヒクさせ乍ら來たのは、後の月が過ぎて、江戸も冬仕度に忙しいある朝のことでした。
「手紙が來たんだらう、恐ろしい金釘流で、――兩國の蟹澤のお銀が死んだのは唯事ぢやねえ。葬ひの濟まぬうち、檢屍を頼む――と斯う書いてある筈だ」
 錢形の平次は粉煙草をせゝり乍ら、少し節をつけて言ふのでした。
「親分は、どうしてそれを?」
 ガラツ八は眼を圓くし乍ら内懷を探つて居ります。
「千里眼だよ。八五郎の懷中などは悉く見通しさ。その手紙の入つて居る大一番の野暮な紙入の中に、質札が二枚と、一昨日兩國の獸肉屋で掻拂つた妻揚枝[#「妻揚枝」はママ]が五六本、それから寛永通寶が五六枚入つてゐる筈だ。大膽不敵だね、それで江戸の町を押し廻すんだから」
「ど、どうしてそんな事が分るんです、親分」
 ガラツ八の眼の色が少し變ります。
「八五郎さん、騙されちやいけませんよ。此處へもそんな手紙が來たんですよ」
 お靜はたまり兼ねてお勝手から助け舟を出しました。
「なんだ、つまらねえ。それならそれと、冒頭つから言へば宜いのに」
「種を明かしちや、どんな手品だつてつまらなくなるよ。――ところで、蟹澤一座のお銀といふのをお前は知つて居るのか」
 錢形平次は漸く眞面目な話に還りました。
「江戸中で知らないのは錢形の親分ばかりだ。兩國一番の人氣者で、いやその綺麗なことと言つたら」
「馬鹿だなア、涎を拭きなよ。兩國の輕業小屋の女太夫に夢中になつて、立派な御用聞が毎日通つちや見つともないぜ」
「毎日は通ひませんよ、精々三日に二度」
「呆れた野郎だ。それほど執心なら飛んで行くが宜い。お前が顏を見せなきやお銀も浮ばれまい」
「だから親分も行つて下さいよ。兩國は石原の利助親分の繩張りだが、利助親分は相變らず床に就いたつ切りで、可哀さうにお品さんが獨りで氣を揉んでゐる」
「お品さんのせゐにして、俺をおびき出す氣だらう。まア宜いや、行つて見よう」
「有難てえ」
 ガラツ八はいそ/\と先に立つて案内するのでした。
 蟹澤一座といふのは、その頃軒を並べた兩國廣小路の見世物小屋の一つで、座主の百太夫といふのは、大した藝ではありませんが、お銀、お玉の二人の娘太夫が評判で、その上品な美しさが、評判になつて居りました。
 姉のお銀は十九か二十歳、歌が巧みで、踊りの地もあり、身輕な藝は不得手ですが、水藝や小手先の手品、さう言つたもので客を呼び、妹のお玉の方は十六七、これは輕捷な身體が身上で、綱渡りから竹乘り、撞木飛び、人のハラハラするやうな危ない藝當が得意でした。
 お銀の優しく愛くるしいのに比べて、お玉は色の淺黒い品の良い顏立ちで、姉妹といふ觸れ込みですが、どこかひどく違つたところがあります。座主の百太夫は大袈裟な道化た調子で人を笑はせますが、大した藝のある男では…

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