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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題173 若様の死
173 わかさまのし
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十卷 狐の嫁入」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年11月15日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1947(昭和22)年11月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2016-06-20 / 2016-03-04
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、是非逢ひ度いといふ人があるんだが――」
 初冬の日向を追ひ乍ら、退屈しのぎの粉煙草を燻して居る錢形平次の鼻の先に、ガラツ八の八五郎は、神妙らしく膝つ小僧を揃へるのでした。
「逢つてやりや宜いぢやねえか、遠慮することはあるめえ、――相手は新造か年増か、それとも婆さんか」
「あつしぢやありませんよ。錢形の親分に逢ひ度いんださうで、染井からわざ/\神田まで、馬に喰はせるほど握り飯を背負つて來ましたよ」
 八五郎は自分の肩越しに、拇指で入口の方を指しました。
「堅い方だな、よく/\の事があつて遠方から來なすつたんだらう。洗足盥は洗濯物で一杯だ、すまねえが井戸端へ案内して、足を洗つたら此處へ通すが宜い」
 平次がさう言ふのも待たず、
「恐れ入りますが親分さん、私は此處で御免を蒙ります――明るいうちに歸らないと、婆アが心配をいたしますので。へ、へ、へ」
 妙な苦笑ひと一緒に、澁紙張にしたやうな五十恰好の老爺が一人、木戸を押し開けて、縁側の方へ顏を出しました。
「其處でも構はないが、陽が當つて少し眩しからう」
「へエ、天道樣に照らし付けられるのは、馴れて居りますので」
「成程、さう言へば狹い家の中よりは、埃つぽい江戸の街中でも、外の方が氣持がよからう、――ところで、あつしに用事といふのは何だえ、爺さん」
 平次は煙草盆と座布圃を持つて、氣輕に縁側へ出て行きました。
「染井のお百姓で、仁兵衞さんといふんださうですよ。知合から知合を辿つて、向柳原の叔母さんのところへ來て、――お前さんに傳手があるちう話を聞いて來たが、錢形の親分さんに逢はせて貰れえ度え、お禮はなんぼでもするだから――と背負つて來たのは一と抱へほどの化けさうな人參と牛蒡――」
 八五郎はツイ手眞似になるのでした。
「お前は引込んで居ろ、馬鹿野郎。そんなに思ひ詰めて來なすつたんだ、冷かしたり何んかすると承知しないぞ」
「へエ」
「爺さん、氣にしないで下さいよ。此野郎は賢こさうな口をきいてゐるが、心が少しばかり足りないんだから――」
「さうかね、見たところはそれほどでもないが、氣の毒なこつたね」
「へエツ、悔みまで言はれちや世話アねえ」
 八五郎はプイと横の方を向きました。
「さて、爺さん、私に用事といふのは?」
「有難うございます。さう御親切にして頂くと私も染井くんだりから來た甲斐があります。實は親分さん、私の伜の文三の行方を突き留めて頂き度いのでございますが――」
「その文三さんとやらは、年は幾つで、何時、何處へ行きなすつたのだ」
「一年前、巣鴨庚申塚の赤塚三右衞門樣のところへ、奉公に參りましたが――」
「武家奉公だな」
「武家と申しても、赤塚樣は豪士で、公方樣からも格別の御會釋のある家柄でございますが、江戸開府前からの土着で、別に何處からも扶持を貰つて居るわけではございません」
「其處へ下男奉公に…

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