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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題010 七人の花嫁
010 しちにんのはなよめ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十二卷 美少年國」 同光社
1954(昭和29)年3月25日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1932(昭和7)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-01-14 / 2014-09-16
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

本篇も亦、平次の獨身もの。許婚中の美しくて純情なお靜が平次の爲に喜んで死地に赴きます。



「やい、八」
「何です、親分」
「ちよいと顏を貸しな」
「へ、へ、へツ、こんな面でもよかつたら、存分に使つて下せえ」
「氣取るなよ、どうせ身代りの贋首つてえ面ぢやねえ。顏と言つたのは言葉の綾だ。本當の所は、手前の足が借りてえ」
 捕物の名人と謳はれるくせに、滅多に人を縛つたことのない御用聞の錢形の平次は、日向でとぐろを卷いて居る子分のガラツ八にこんな調子で話しかけました。
 松は過ぎましたが、妙に生暖かいせゐか、まだ江戸の街にも屠蘇の醉が殘つて居るやうな晝下がり、中年者の客を送り出すと、平次はすぐ縁側へ廻つて、ガラツ八を居睡りから呼び起したのです。
「へエ――、何處へ飛んで行きアいゝんで――」
「今の話を聞いたらう、あの客が長々と話しこんだ――」
「いゝえ」
「聞かねえ?」
「人の話なんか聞きやしませんよ、そんなさもしい八さんぢやねえ」
「いゝ心掛だ、――と言ひてえが、實は居睡りをして居たんだらう」
「まアそんなところで、――何しろ日向は暖えし、懷ろは凉しいし、凝つとしてゐりや、睡くなるばかりで――」
「呆れたものだ。まアいゝやな、俺が詳しく復習つてやらう」
「お手數でもさう願ひませうか」
「默つて聞けよ」
「へエ――」
 平次の態度には例もに似氣なく眞劍なところがあるので、無駄の多いガラツ八も、さすがに口を緘んで、親分の顏を見上げました。
「今此處へ見えたのは、十軒店の八百徳の主人だ。一人娘のお仙を、同じ商賣仲間の末廣町の八百峰の跡取の息子に嫁にやるについて、俺の力が借りたいと言ふのだよ」
「惡い蟲でも附いてゐるんでせう、どうせ當節の娘だ」
「そんな話ぢやねえ。聞けば近頃、神田から日本橋へかけて、花嫁がチヨイチヨイ消えてなくなるさうだな」
「それなら聞きましたよ。祝言の晩に行方知れずになつた花嫁は、暮から此方、二人くらゐあるでせう。どうせ言ひ交した男でもあつて、いよ/\といふ晩に花嫁姿で道行を極めたんぢやありませんか。土壇場に据ゑると女の子は思ひの外強くなりますからね」
「ところが、八百徳の主人の話では、消えた花嫁が三人もあるさうだよ」
「妙に氣が揃つたものですねえ」
「そんな暢氣な事を言つちや居られない。一と月や半月のうちに、花嫁が三人も行方知れずになるといふのは、少し可怪しくはないかな、八」
「さう言へばさうかもしれませんね」
「何處の家でも、娘に男があつて逃げたと思ひ込んで居るから、世間體を憚つて表沙汰にはしないさうだが、八百徳の主人は、どうも自分の娘も消えてなくなりさうで心配でたまらないと言ふんだよ」
「成程ね」
「そこで手前へ頼みといふのは――」
「そのお仙とかいふ娘に、蟲が附いてるか何うか嗅ぎ出して來いといふんでせう」
「そんな氣障な用事ぢやない。娘…

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