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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題001 金色の処女
001 こんじきのおとめ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十二卷 美少年國」 同光社
1954(昭和29)年3月25日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1931(昭和6)年4月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-01-02 / 2014-09-16
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

これは錢形平次の最初の手柄話で、この事件が平次を有名にしたのです。この頃お靜はまだ平次の女房になつて居ず、ガラツ八も現はれては居りません。



「平次、折入つての頼みだ。引受けてくれるか」
「へエ――」
 錢形の平次は、相手の眞意を測り兼ねて、そつと顏を上げました。二十四、五の苦み走つた好い男、藍微塵の狹い袷が膝小僧を押し隱して、彌造に馴れた手をソツと前に揃へます。
「一つ間違へば、御奉行朝倉石見守樣は申すに及ばず、御老中方に取つても腹切り道具だ。押付けがましいが平次、命を投げ出すつもりでやつて見てはくれまいか」
 と言ふのは、南町奉行與力の筆頭笹野新三郎、奉行朝倉石見守の智惠嚢と言はれた程の人物ですが、不思議に高貴な人品骨柄です。
「頼むも頼まないも御座いません。先代から御恩になつた旦那樣の大事とあれば、平次の命なんざ物の數でも御座いません。どうぞ御遠慮なく仰しやつて下さいまし」
 敷居の中へゐざり入る平次、それをさし招くやうに座布團を滑り落ちた新三郎は、
「上樣には、又雜司ヶ谷の御鷹狩を仰せ出された」
「エツ」
「先頃、雜司ヶ谷御鷹狩の節の騷ぎは、お前も聞いたであらう」
「薄々は存じて居ります」
 それは平次も聽き知つて居りました。三代將軍家光公が、雜司ヶ谷鬼子母神のあたりで御鷹を放たれた時、何處からともなく飛んで來た一本の征矢が、危ふく家光公の肩先をかすめ、三つ葉葵の定紋を打つた陣笠の裏金に滑つて、眼前三歩のところに落ちたといふ話。
 それツ――と立ちどころに手配しましたが、曲者の行方は更にわかりません。
 後で調べて見ると、鷹の羽を矧いだ箆深の眞矢で、白磨き二寸あまりの矢尻には、松前のアイヌが使ふと言ふ『トリカブト』の毒が塗つてあつたと言ふことです。
「その曲者も召捕らぬうちに、上樣には再度雜司ヶ谷の御鷹野を仰せ出された。御老中は申すに及ばず、お側の衆からもいろ/\諫言を申上げたが、上樣日頃の御氣性で、一旦仰せ出された上は金輪際變替は遊ばされぬ。そこで御老中方から、朝倉石見守樣へ直々のお頼みで、是が非でも御鷹野の當日までに、上樣を遠矢にかけた曲者を探し出せとのお言葉だ。何んとか良い工夫はあるまいか」
 一代の才子笹野新三郎も、思案に餘つて岡つ引風情の平次に縋り付いたのです。
「よく仰しやつて下さいました。御用聞冥利、この平次が手一杯にお引受け申しませう。就ては旦那、私が聞き度いと思ふことを、皆んな隱さずに仰しやつて頂けませうか」
「それは言ふ迄もない事だ。何んなりと腑に落ちない事があつたら訊くが宜い」
「ではお尋ねしますが、上樣を雜司ヶ谷のお鷹野に引付けるのは、何にか深い仔細が御座いませう。小鳥の居るのは雜司ヶ谷ばかりぢや御座いません。目黒にも桐ヶ谷にも千住にも、この秋はことの外獲物が多いといふ評判で御座います。それが何うしたわけで――」
「これ…

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