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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題213 一と目千両
213 ひとめせんりょう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十七卷 猿蟹合戰」 同光社
1954(昭和29)年6月10日
初出「オール讀物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年1月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2017-04-22 / 2017-03-11
長さの目安約 27 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



「親分、東兩國に大層な小屋が建ちましたね。あツしは人に誘はれて二三度覗きましたが、いや、その綺麗さといふものは」
 八五郎は相變らず江戸中のニユースを掻き集めて、親分の錢形平次のところへ持つて來るのでした。
「御殿造りの小屋でも建つたのかえ」
「そんな間拔けなものぢやありませんよ。小屋は昔からチヤチなものですが、中味が大變なんで、たまらねえほど綺麗な娘太夫が二人」
「馬鹿だなア、まだ松も取れないうちから、兩國の見世物小屋へ日參して居るのか」
「日參といふ程ぢやありませんよ、五日の間にたつた三度」
 八五郎はでつかい指などを折つて勘定して居るのです。
「呆れた野郎だ。どうせ十手を見せびらかして、唯で入るんだろう」
「飛んでもない、最初は正直に十六文の木戸を拂ひましたよ。それで『一と目千兩』と言はれる、お夢の顏を拜んで、達者なお鈴の藝を見るんだから、九百九十九兩三分三朱くらゐは儲かるやうなもので――」
「お前といふ人間は、よく/\長生きするやうに出來て居るよ」
「二度目にはあつしといふ者が、錢形親分の片腕の八五郎とわかつて――」
「お前は俺の片腕かい、大したことだな。お前が居なきや、俺は手棒になるわけだ」
「まア、さう言ふことにして置いて下さいよ。兎も角二日目から木戸錢を取らないばかりでなく、妙にチヤホヤして、明日からはどうぞ毎日來て下さいと、一目千兩のお夢などは、泣かぬばかりに頼むぢやありませんか」
「嫌なことだな。何んだつて又、そんなに持てたんだ――急に顎なんか撫で廻したつて、その上男つ振りが好くはなるまいな」
「好い男のせゐもありますが、實は近頃チヨイチヨイ無氣味なことがあるんですつて」
「無氣味なこと?」
「取立てて話すほどのことでもないが、ことによつたら私は命を狙はれて居るかも知れない――と一と目千兩のお夢が言ふんですからね」
「何んだえ、その一と目千兩といふのは。眇目が千兩箱の夢でも見たと言ふのか」
「驚いたなア、錢形の親分があれを知らないんですか。近頃江戸中の評判ですが」
「さては、何時の間にやら、俺は江戸つ兒の人別を拔かれたかな」
「大した良い女ですよ。たつた一と目見ても、千兩の値打があるといふんだから驚くでせう」
「その女と半日一緒に居ると、大概の身上は潰れるわけだ」
「身上くらゐは潰し度くなりますよ。瓜實顏で眼が大きくて、鼻筋が通つて、口許が可愛らしくて、そりやもう――」
 八五郎は語彙を總仕舞にして、肩を縮めたり、舌を出したりするのです。
「そんな化物は何處に居るんだ」
「小左衞門の小屋ですよ。小左衞門お仲夫婦の曲藝師で外に道化の金太といふ人氣者が居るんですが、去年までは一番の働き手はお鈴といふ娘で、それは唄も歌ひ、踊りも踊り、その上綱渡り足藝が達者で、滅法可愛らしい娘ですが、去年の暮から噺し方の六助の世話で一座に、『一と目千兩』のお…

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