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俗法師考
ぞくほうしこう
作品ID54856
著者喜田 貞吉
文字遣い新字新仮名
底本 「差別の根源を考える」 河出書房新社
2008(平成20)年9月30日
初出「民族と歴史 第三巻第五号~第七号」1920(大正9)年4月、6月、「民族と歴史 第四巻第一号~第四号」1920(大正9)年7月~9月
入力者川山隆
校正者門田裕志
公開 / 更新2013-03-19 / 2014-09-16
長さの目安約 158 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

俗法師考序論



1 緒言

 斯道において先輩たる柳田國男君が、かつてその経営に係わる『郷土研究』の誌上において、「毛坊主考」(大正三―四年、第二巻一―一二号)の題下に特殊民と在俗法師との関係につき、長々しく研究を連載せられたことがあった。毛坊主ということは、自分はかつて『雍州府志』で見たことがあったほかに、当時なんらの知識をも有せず、したがってそれが自分にはあまり注意をも惹いていなかった問題であったので、その際においては、実を申さばはなはだ失礼ながら、単にその材料の豊富なのに敬服し、簡単に目を通したというくらいのところで、たいていは忘れてしまっていたのであった。しかるにその後特殊部落のことを研究するに当たって、エタの先祖と推定せられているものが、餌取法師と呼ばれたり、今にエッタ法師だの、小法師だの、エッタン坊だの、皮坊だの、長吏ん坊などの語が存していることやら、かつては同じ道をたどったと思われる雑多の特殊民というべき階級の人々が、往々にして法師だの、坊主だの、聖だのと呼ばれたり、よしやその称呼はなくても、かつては法師姿で描きあらわされておったり、今においてなお地方によってはこれらの仲間を禅門だの、勧進(勧進聖の義)だの、西国(西国巡礼の義)だの、遍路(四国遍路の義)だのといっていたりすることが、はなはだ頻繁に自分の目に映ずるので、再びその毛坊主考を繰り返してみる気になった。そこでさらにこれを精読してみると、前にはうわの空で見過ごしていたことにも、なかなか面白い研究が少くない。自分の気付かなんだ材料がはなはだ多く調理せられている。中には自分が「特殊部落研究号」中に発表したところを、すでに数年前に予想しておられたかの如く、前もって器用に弁駁しておられるようなところも往々にして見受けられる。自分がかの特別号を発表する前に、もしこれを精読するの労を吝まなかったならば、今少し疵の少い研究ができたのであったろうにと、残り惜しく思わずにはいられない。しかしながら、柳田君の研究にも、なお自分の腑に落ちないところが多いとともに、氏の援引せられた豊富なる材料以外にも、まだ捨てがたい材料が少からず遺されてある。もちろん柳田君においても、その後さらに深遠なる研究を重ねておられることではあろうが、それを拝聴するの機会を有せざる今日において、その傍らに自己の管見を発表する余地を求めるのも、研究上、またやむをえない次第である。似たような種類の雑誌に、似たような題目を掲げて、似たような研究を繰り返すのは、礼において欠くるところがあり、自分としても拙劣な感がないではないが、これは学問のために特別の御容赦に与り、自分にとってもまた学問のために我慢しなければならぬと思う。

2 法師と特殊民

 俗法師の研究は、多くの場合において特殊民との関係を生じて来る。特殊民という語は、すでに述べた如…

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