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ぶくぶく長々火の目小僧
ぶくぶくながながひのめこぞう
作品ID549
著者鈴木 三重吉
文字遣い新字新仮名
底本 「鈴木三重吉童話集」 岩波文庫、岩波書店
1996(平成8)年11月18日
入力者今泉るり
校正者Juki
公開 / 更新2000-02-15 / 2014-09-17
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

       一

 これは昔も昔も大昔のお話です。そのじぶんは今とすっかりちがって、鼠でも靴をはいて歩いていました。そして猫を片はしから取って食べました。ろばも剣をつるしていばっていました。にわとりは、しじゅう犬をおっかけまわしていじめていました。
 こんなに、何でもものがさかさまだったときのことですから、今から言えば、それこそ昔も昔も大昔の、そのまたずっとずっと昔のお話です。だから、いろんなおかしなことばかり出て来ます。しかし、けっしてうそではありません。
 そのころ或国の王さまに、美しい王女がありました。その王女を世界中の王さまや王子が、だれもかれもお嫁にほしがって、入りかわりもらいに来ました。
 しかし王女は、どんなりっぱな人のところから話があっても、厭だ、と言って、はねつけてしまいました。
 世界中の王さまや王子たちは、それでもまだこりないで、なんども出かけて来ました。
 王女は、うるさくてたまらないものですから、とうとうお父さまの王さまに向って、
「ではだれでも三晩の間、私をお部屋の外へ出さないように、寝ずの番をして見せる人がありましたら、その方のお嫁になりましょう。」と言いました。
 王さまはさっそくそのことを世界中へお知らせになりました。そのかわり、もし途中で少しでもい眠りをすると、すぐにきり殺してしまうから、そのつもりでおいで下さいとお言いになりました。
 すると方々の王さまや王子たちは、何だ、そんなことなら、だれにだって出来ると言って、どんどんおしかけて来ました。
 ところが、夜になって、王女のお部屋へとおされて、しばらく王女の顔を見ていると、どんな人でもついうとうと眠くなって、いつの間にかぐうぐう寝こんでしまいました。それで、来る人来る人が、一人ものこらず、みんな王さまにきり殺されてしまいました。
 すると、或王さまのところに、鹿のようにきれいな、そしてたかのように勇しい、年わかい王子がいました。この王子がその話を聞いて、私ならきっと眠らないで番をして見せる、一つ行ってためして来ようと思いました。
 しかしお父さまの王さまは、王子がうっかり眠りでもしたらたいへんですから、いやいやそれはいけないと言って、どうしてもおゆるしになりませんでした。そうなると王子はなおさらいきたくて、毎日々々、
「どうかいかせて下さいまし。たった三晩ぐらいのことですもの。かならず眠りはいたしません。」と言いながら、王さまにつきまとって、ねだりました。さすがの王さまもとうとう根まけをなすって、それでは、どうなりとするがいいと、しかたなしにこう仰いました。
 王子は大よろこびで、お金入れへお金をどっさり入れて、それから、よく切れるりっぱな剣をつるすが早いか、お供もつれないで、大勇みに勇んで出かけました。

       二

 王子は遠い遠い長い道をどんどん急いでい…

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