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小ざかな干物の味
こざかなひもののあじ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人味道」 中公文庫、中央公論社
1980(昭和55)年4月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-10-31 / 2014-09-16
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 干ものの美味いのに当ったよろこびは格別である。ことに中干しとか、生乾しとか言った類いの最上物に当るうれしさは、筆に尽しがたい。東京近くで言うと、熱海の干ものがなかなか評判だ。もともと熱海の漁場に揚がるあじ・いか・かれい・あまだいなど、さかなの種類も相当のものだが、干上がりの条件として、もってこいの浜風と気温に恵まれている点が、味をよくする最大原因となっているらしい。干ものの完成、これには気温と浜風の和合がなにより肝心だ。
 干ものは朝食に適するところから、熱海では朝食の膳の一部に必ずと言ってよいほど干ものを添えて、自慢することを忘れていない。
 ところが近頃では、浴客の数に反比例して漁獲量が不足し、ときには場違いの魚類が加わるのみか、雨天などには、乾燥機がどんどん仕上げるものもあるらしいから、評判通りのものが、いつでも手に入るとはかぎらない。あじ・かれい・うるめ・きす・あまだい、いずれも本格の干し加減で食わしてくれるとすばらしく美味い。だが、中干し干ものというものは、今日美味かったからと言って、それを翌日に残し、前日のよろこびを繰り返そうと思っても、先通りの美味さが得られるとはかぎらない。まあ、その場きりの美味さと覚えておけば、まちがうことはない。
 あまだいの干もの、これは乾し切ったものが特殊な味を持ち、素敵な美味さを発揮している。興津の浜でも乾しているが、これも最高の干ものとしての権威を充分に持っている。あまだいを上方ではぐちと言って、若狭小浜産を第一と称賛しているが、ぐちとやなぎがれいだけは、むしろ興津地方が優っている。
 ただ興津のあまだいは若狭ものに較べて、ウロコが食えない恨みがある。ウロコごと焼いて食べるあまだいは、また格別の風味を持つものであるが、興津にはそれが期待できない。
 うるめとかかますの干もの、これは京阪に出回っているものに、特筆すべき美味さがある。焼けば激しい油がにじみ出て、その舌に残る後口に、たまらないものがある。やなぎがれい、これは静岡以東が本場らしく、目板がれい、すなわち上方でいう松葉がれいは、だんぜん若狭ものを逸品とする。これは干もの中でも、とりわけ美味いものである。京阪方面では、人等しくその美味さを知っているが、ただ価格が他の干ものに較べて高価である。従って、そうざいにはならないが、酒の肴にはこの上なしと言えるだろう。
 しかし、この干もの、松葉がれいは難を言えば美味すぎることである。およそなんでも美味すぎるということは、特等品にはならない。美味すぎるために、特等を下って一等品となる。総じて美味すぎるものは、最高級美食とは言いがたい。その点では、関東方面にあるやなぎがれいなど、実に特等品の座を占めるだろう。と言っても、松葉がれいは、その漁獲がやなぎがれいのごとくおびただしくないから、その美味さと漁獲の少なさから、いやおう…

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