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すき焼きと鴨料理――洋食雑感――
すきやきとかもりょうり――ようしょくざっかん――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人味道」 中公文庫、中央公論社
1980(昭和55)年4月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2012-12-20 / 2014-09-16
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 かねて日本を出発する前から、フランスの鴨料理について、やかましく聞かされていた。
 それというのも、一方的な西欧礼賛が多く、ほんとうのところは分ったものではないと、私はひそかに考えていた。フランスがどうの、アメリカがどうのと、親切に話してくれる人たちが、日本のこととなると、実はよく知らないのだから、話が初めから狂っている。
 日本人にして、日本を知らない連中が向こうへ行くものだから、外国へ行っても日本のことを教えることができない。
 これは日本のために大変な損失である。また外国のためにも損失である。
 名物と言えば、フジにゲイシャ、奈良では鹿にセンベイをやることしか、自慢し教えないのだから、向こうの人間は日本について知る由もない。いわんや、日本料理など分るわけがないのである。
 例えば、ニューヨークのすき焼きが昔から有名であるが、行ってみると、すき焼きでもなんでもない。桶のようにふちの高い鉄なべの中で、菜っ葉を山のように盛り、見るからに不味そうな肉の幾片かを載せ、グチャグチャ煮ている。それを日本通のアメリカ人がよろこんで、家鴨が餌を食うみたいにガボガボ食っている。
 主人なる男は新潟在の出身で、どこをどうやってか移民船にもぐり込み、ニューヨークで人夫などしているうちに、人の入れ知恵で、すき焼き屋を始めたらしい。
 話してみると、新潟の町も東京も知ってはいない。そんな具合だから、道具などなにも持ってはいない。店構えはとみれば、まるで田舎の博覧会みたいに飾りたて、部屋にはいかがわしい複製の錦絵などを貼りめぐらしてある。
 主人を呼び、私がほんとうのすき焼きのつくり方を教えると、
「ヘエー、すき焼きというものはそういうものですか」
 と、感心している始末であった。
 フランスの鴨の話にしても、話す人間が話に聞くだけで、実際に行ってはいないらしい。なにしろ一羽一万円するのであるから、初めから敬遠しているのである。趣味も食道楽もあったものではない。向こうで日本人が行くところと言えば、場末の居酒屋みたいな小さな店である。しかも、その小さなお店で“学ぶ”という気持だから、自由な注文も質問もできはしない。
 鴨料理の店「ツール・ダルジャン」のように堂々とした造りで、正装のボーイが鷹揚に構えているようなお店では、声も出ないのだろう。
 私が「ツール・ダルジャン」を訪ねたのは、画家の荻須高徳氏夫妻、それに小説家大岡昇平氏といっしょの時であった。見渡したところ、フランス人よりも外国人の方が多いようだった。こちらは旅先のことでもあるし、高いと言ったって、一羽とって皆で分けて食べればいいというつもりで入って行くと、タキシードを着用に及んだボーイが、銀盆の上で丸裸の鴨をジュージューやってスープを取っている。
 早速、ボーイが私たちのところへ持って来た鴨は、半熟にボイルしてあり、二十四…

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