えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


広告

眼鏡
めがね
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本小川未明童話全集 11」 講談社
1977(昭和52)年9月10日
初出「お話の木」1937(昭和12)年9月
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者酒井裕二
公開 / 更新2017-01-06 / 2016-12-22
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
HTMLページで読む

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

amazon.co.jp

広告

本文より



 かず子さんが、見せてくれた紅い貝は、なんという美しい色をしていたでしょう。また、紫ばんだ青い貝も、海の色が、そのまま染まったような、めったに見たことのないものでありました。
「ねえやが、お嫁にいくので、お家へ帰ったのよ。そして、私に送ってくれたのよ。図画の先生が、ほしいとおっしゃったから、私いくつもあげたわ。」と、かず子さんが、いいました。正吉は自分もほしいと思ったけれど、おくれと口に出してはいいませんでした。かえって、反対に、
「なあんだい、もっと、もっと、きれいなものをかず子ちゃんは、知っていないだろう?」と、いったのです。かず子さんは、ぼんやりと、正吉の顔をながめて、
「もっときれいなものって、貝? 石? 正ちゃんは、持っているの。」と、ききました。
「持っていないけど、あるよ。」
「ありゃしないわ。」
「あるから。」
「じゃ、見せてよ。」と、かず子さんは、いいました。
 正吉は、ただ、なんでも悪口をいってみたかったのです。なぜなら、自分の家にいた女中のしげは、お嫁の話どころでなく、いつも欲深げな父親がたずねてきては、外へ呼び出して、おしげが働いてもらったお金を、みんな取り上げていってしまった末に、無理におしげをよそへやってしまったのでした。それを考えると、だれにもいうことなく、腹が立つのであります。
「悪口をいうから、正ちゃんにはあげないわ。」
「いるもんか、かず子ちゃんは、もっと、もっと、きれいなものがあるのを知らないだろう。」
 このとき、正吉は、ほんとうにきれいなものがあるのを思い出したのでした。それで、ほくほくしていると、
「ああわかった、正ちゃん、お花でしょう?」
「花なもんか。」
「正ちゃんの知っているもの?」
「うん、そうだよ。」
「ありゃしないわ。」
 かず子ちゃんは、勝ち誇ったように、片足を上げて、トン、トンと跳ねました。
「じゃ、きてごらんよ。」
 正吉は先に立って、くさむらの中へ入りました。木にからんだ、からすうりの葉に止まっている、うす赤い蛾を捕らえました。
「ほら、かず子ちゃんの貝より、もっときれいだろう。」
 生きている蛾のほうが、貝がらよりもきれいでありました。けれど、かず子さんは、気味悪がって、その蛾を取ろうとしませんでした。
「ほんとうに、きれいだわね。ついている白い粉、毒でしょう。」
「あとで、手を洗うからいいよ。数珠玉だって、この青い貝よりきれいだぜ。」
「やっぱり、私、貝がらのほうがいいわ。だって、海にあるんですもの。」
 海ときいて、正吉は、だまって、考え込んでいました。
「正ちゃん、なにしてんだい。」
 そこへ、義雄くんがやってきました。義雄は、小さな空きかんを握っていました。
「みみずを取りにきたの?」と、正吉が、きくと、彼は、頭を横に振って、
「君、がまがえるを見ない。」といいました。
「ひきが…

えあ草紙で読む

find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2017 Sato Kazuhiko