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陶芸家を志す者のために
とうげいかをこころざすもののために
作品ID55081
副題――芸術における人と作品の関係について――
――げいじゅつにおけるひととさくひんのかんけいについて――
著者北大路 魯山人
文字遣い新字新仮名
底本 「魯山人陶説」 中公文庫、中央公論社
1992(平成4)年5月10日
入力者門田裕志
校正者雪森
公開 / 更新2014-11-19 / 2014-10-13
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私に陶器に関する講演をせよとのご依頼を受けましたが、何をどう申し上げてよいか困っております。
 この学校ではどんなご希望をもっておられるか、何を期待しておられるか、日本と米国の習俗が全く相違していますので、どういうことを語るべきか、実は当惑しているところです。
 殊に私の作っています陶器は、日本に於ても唯一人独得の行き方をしており、作柄も類例のないような変り方でありますので、日本に在ってさえ後輩に伝える言葉に窮しておる始末ですから、国情を異にする当米国では私の申し上げる意味がうまく通じますか、それを案じております。
 と言うのは、私の作ります陶器は殆ど機械を無視して、心の芸として、心の美だけを頼りにし、常に美術眼から見た自然美を親とし、師と仰ぎ、それによって学び、美術価値を至上主義としての陶器を作り出さんとしているからであります。
 機械の仕事は飽くまでも機械仕事でありまして、機械で芸術を生まんとすることは先ず無謀に近いことと考えています。
 とにかく、陶器におきましても、あらゆる芸術と同じように人の心を打ち、人の心に喰い入るのでなければ価値ないものと思っております。
 絵画彫刻の一例を見渡しましても、高い地位を占めております有名品は、いずれも人の心を動かし、人の心に改革を促しています。陶器の類にしましても、世界中に眼を通しますとき、大体五、六百年以前に出来ております古典的なものは、いずれも芸術的生命を持っております。日本におきましても、三、四百年以後に出来ましたものは二、三の個人作家、例えば諸君もご承知の乾山の如き、あるいは光悦、長次郎などの茶碗、仁清、木米などの如き製作を除きましては、殆どが職人作でありまして、芸術的作品は見当りません。
 この点は中国も朝鮮も揆を一にしておりまして、過去三百年以後には低級な眼慰みになるものはありましても、心を打つもの、心を動かし、心を楽しませてくれるものは稀にあっても、まずまず皆無と見て間違いはありません。
 欧米各国に於ても、そうではないかと思っております。機械の重宝に重きをおく心と、美しき心の美のみを糧として行動をとる心の相違かと思っております。
 価いが安くなくてはならない条件にある日常品の如きは、現在各国で行ないつつある方法で作り上げ、日常品として役立たせることは少しも咎むべきではないと思います。これはこれなりに発達さして行けばよいのでありますが、事ひとたび高級な趣味人の眼に投ぜんとする目的を有するとか、更に登って純真な程度の高い芸術に心を浸さずんば止み難いというような作家魂をもって製作しようとするには、まず機械の有難さを無視してかからねばならんと思います。極端な表現をもってすれば、所謂機械文明は私どもの狙うところの芸術の心とはなんの係わりもないと言っても過言ではないと思います。
 要するに私ども考えます芸術は…

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