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茸をたずねる
たけをたずねる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「花の名随筆10 十月の花」 作品社
1999(平成11)年9月10日
入力者門田裕志
校正者仙酔ゑびす
公開 / 更新2013-01-04 / 2014-09-16
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 秋が来る。山風が吹き颪す。欅や榎の葉が虚空へ群がってとびちる。谷川の水が澄みきって落栗が明らかに転びつつ流れてゆく。そうすると毎年私の好奇心が彼の大空へ連なり聳えた山々のふところへ深くもひきつけられる。というのは其の連山のふところにはさまざまの茸が生えていて私の訪うのを待っていて呉れる。この茸は全く人間味を離れて自然の純真な心持を伝え、訪問者をして何時の間にか仙人化してしまう。その仙人化されてゆくところに私は大なる興味をおぼえ、快い笑みを浮べつつ歓喜の心を掻き抱く。私の感受性にうったうる自然の感化は山国生活の最も尊重すべき事の一つである。
 で、私は好晴の日を見ては屡々山岳の茸を訪問する。敢て訪問するというのは、毒茸が多くて食すべき大獲物に接し得ないことと、前述の意味に出発点を置くところから狩るというような残忍な語を使用したくないので云う言葉である。茸訪問については屡々私は一人の案内者を伴うことがある。案内者の名を仮に粂吉と呼ぶ。幾春秋山中の日に焦かれた彼の顔は赤銅色を呈している。翁の面のようにも見える。長い眉毛が長寿不老というような語を思わせる。明治十二三年頃買って其の儘用い来ったという陣笠のような猟帽を頭へ戴いて、黒い古紐が面のような顔をキリリと結んでいる。彼の歩みは私のようにせせこましく歩くことなしに緩々と鷹揚な運びである。それでいて私よりも迅い。
 先ず、端山の楢や櫟などの生い茂った林からはいり始める。林にはどこにも見るような萓や女郎花、桔梗、萩などの秋草が乱れ咲いて朝露が粒だって葉末にとまっている。落葉がかなり散り敷いて草の葉末にも懸ったりして見える中に、桜落葉は最も早くいたいたしく紅葉したのが其の幹を取り巻いて、一と所ずつ殊に多く濃い色彩を放って見える。そんなところに偶々シメジと呼ぶ白い茸が早く簇生していることがあるので、注意深い眼を見張って桜の幹に片手をかけつつ、くるりと向うへ繞って行く粂吉を見ることがある。私もしばらくの間は必ず一度は粂吉の眼をつけたところへ眼をつけて、彼が通って行くところと余り離れない場所を踏んで登って行くのを常とするのであるが、一二時間の後にはもう自分自身の道を見出して進んでゆきつつあることに気がつく。
 草鞋の軽い足どりに蹴返さるる落葉の音が四辺の静かさを破ってひっきりなしに続いてゆく。朝露が裾一尺ばかりを湿して草鞋はだんだん重たくなってくる。朝日がようよう高い東嶺を抜け出て樹々の葉を透してくる。眼前がきらきらして一しきりこれと定めて物を見極めにくくなる。そんな時俄にけたたましい音がして、落葉樹の間から山鳥が飛びあがることがある。彼の羽色は濃い茶褐色で落葉の色に似通っているところから、草叢の間を歩いているときなどは余程近くに在っても中々見定めにくいのであるが、その牡鳥は多くは二尺位もある長々しい尾を持っているので、飛ん…

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