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お小姓児太郎
おこしょうこたろう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「書物の王国8 美少年」 国書刊行会
1997(平成9)年10月15日
入力者川山隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2014-06-11 / 2014-11-15
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 髪結弥吉は、朝のうちのお呼びで、明るい下り屋敷の詰所で、稚児小姓児太郎の朝髪のみだれを撫でつけていた。快よい髪弄りで睡不足の疲れが出て、うとうとと折柄膝がしらを暖める日ざしに誘われながら、い睡りをつづけていた。
 頸すじが女のように白くたわわになり、梳き手の揺れをつたえるごとに、弥吉の手ごたえを重くした。弥吉は、飽かずそれを眺めていたが、いかにも疲れ込んでいるらしい児太郎の様子が、それとなくお宿直の、さまざまな取沙汰を思い出させた上、このように正体もなく居睡りをつづけていることが、軽い憎しみをさえ感じ出させた。生白い手をきちんと膝の上にかさね、それすら、ぐったりと、累ね手の重みで感覚もないように見えた。お弓蔵近くの桜が白く晒されはじめ、詰所詰所では、うす睡い碁将棋の音も途絶えていた。
 ――或る日、ちょうど弥吉が奉公してから一と月ほどあと、児太郎は、自分の部屋へ弥吉を呼んだ。
「無聊だから盃をとらす……。」
 そう言われて始めて弥吉は、詰所結いを望んで、児太郎の屋敷へ勤めたこと、鷹狩の、鞍ヶ岳の池で始めて児太郎を見たことなどを話した。そのことも、何時の間にか児太郎にはわかっていたらしかった。行燈のかげで、静かに微笑ってみせ、自分でわざと酒をついでやったりした。そういう情事になれている児太郎は、高ぴしゃに弥吉を眺め下ろしていた。「爪を剪ってくれい。」そう主人の命咐を酔った手つきで、白脛の投げ出されたときは、実際からだが震えるほど、ぞっと嬉しかった。「下手だの。お前のをお出し。」そういう主人を、弥吉は、あわてて手で遮った。
「勿体ない。」
「いや関わぬ。指を出せ。」
 児太郎は、自分の白い手の上に、若者の指を乗せ、ポツンと深爪を剪っていたが、みな肉が切られ、あかいものが滲んで出た。弥吉は指頭をしたたる血と、それの痛みを怺えるため顔を歪めていた。
 児太郎は、弥吉の苦しそうにしている様子をみると、惨酷にちかい微笑をうかべながら、しまいに興もなさそうに手をつき放した。――主君利治公の御寝所で、ある晩、肩揉みをしていて、爪があたっていけない、どの爪だと、これも血のにじむ深爪を切られたことを思い出したのである。その自分が弥吉をこうするのは、べつに悪いことだとは思わなかった。
「弥吉、肩をあたれ。」
「はい。」
 弥吉は、日頃思っている主人の、優肩に手を触れる快適さに身をふるわせ、肩につかまったが、爪さきが痛んで、指頭が立たなかった、「どうした、利かないじゃないか。」児太郎はそう叫ぶと、煩さそうに肩さきを振って、弥吉の手を払った。
「指さきが痛むというのか、これしきのことがなんだ。」
 児太郎は、手を叩いて近侍を呼び、鞭を持たさせた。近侍がびくびくさし出した三尺なめしの鞭は、弥吉の、脊すじに向って激しく打ちのめされた。弥吉は、絶え入るような声で、あたりをのた打ち廻…

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