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小島の春
こじまのはる
作品ID55154
副題01 序
01 じょ
著者高野 六郎
文字遣い新字新仮名
底本 「[復刻版]小島の春」 長崎出版
2009(平成21)年5月30日
入力者岡山勝美
校正者Juki
公開 / 更新2015-01-05 / 2014-12-15
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


 小川さんは完全な癩療養所の先生であると私は信じている。完全な者はそう幾人もない。小川さんは日本における稀有な存在である。
 小川さんは心魂を捧げつくして癩事業に精進する。小川さんの「土佐の秋」や「小島の春」を読んで圧迫を感じない者はなかろう。
「誰にでも、一人でも、療養所を、癩を諒解して貰いたい心願に燃えて」小川さんは土佐の山奥や瀬戸の小島を心身を消耗させながら縦横無尽に歩き廻る。講演もする。説得もする、文章も書くし歌も作る。出来ない事は自転車に乗ること位らしい。その自転車へも荷物台へ身軽にまたがって山路を運んで貰うことを心得ている。
 小川さんに欠けているのは健康だけである。否、その健康もかつては十分にあったのである。健康であったればこそ土佐の旅もその他僻地の検診もできたのである。折角持っていた健康を自分でたたき潰すほどに猛烈に働こうとする意志と感情の激しさが小川さんの欠点なのである。
 小川さんは働きぬいた、そして働きすぎた、だから暫く休養せねばならぬ。小川さんを休ませるために私達は小川さんの活動手記を読んで、患家訪問記録の最高作品を味いたいと思う。小川さんが全心全身を以て書きあげた記述が、多くの人に読まれることは小川さんにとっても会心のことであろうし、之を読む者に向っては癩事業の精髄を把握させるに相違ないのである。
 私は元来働く小川さんだけを知っていたが、数日前長島を訪ねて、傷める小川さんを見た。仕事着を脱いでいる小川さんの姿は淋しかったが、療養余暇に此の好著ができ上っていると聞いて愉快にたえなかった。早く小川さんを働かせたい。小川さんの健康の一陽来復を切に祈って序にかえる[#「序にかえる」はママ]

昭和十年十月十九日朝十時十分黙祷の後
高野六郎



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