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ふかのう
著者
翻訳者上田 敏
文字遣い旧字旧仮名
底本 「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店
1962(昭和37)年12月16日
初出「朱欒 創刊号」1911(明治44)年11月
入力者川山隆
校正者成宮佐知子
公開 / 更新2012-12-06 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


人よ、攀ぢ難いあの山がいかに高いとも、
 飛躍の念さへ切ならば、
 恐れるなかれ不可能の、
 金の駿馬をせめたてよ。

登れなほ高く、なほ遠く。たとひ賢しらに
 なんぢが心、山腹の
 泉のそばを慕ふとも、
 悦はすべて飛躍である。

途のなかばにとまる者は、やがて途に迷ふ。
 かつは苦みかつ悶え
 錯ち怒ることあつて
 燃立つ心に命がある。

きのふの目標、あすの日は途の障礙ぞ、
 籠の戸いかに固いとも、
 思想はたえず相尅し
 とはに盡きぬはその饑渇。

變化あれよ、向上あれとは、この世の大法、
 不動の今がいかにして、
 現世の榮を引き[#挿絵]はす
 大コムパスの支點となる。

過ぎし世の智慧といふもの何の益かある、
 授くるものは梭櫚の葉の
 危なげも無い勝利のみ。
 これを越えて飛べ、熱烈の夢。

人苟も飛躍せば、たえず己に超越せよ。
 われとおのれに驚けよ、
 頭果してこの熱に、
 堪へるか否かを問ふ勿れ。

不斷の慾のたえまない人の心を、
 攀ぢ難い山の上から、ましぐらに、
 未來めがけて不可能の、
 金の駿馬は推し上げる。



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