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薄紗の帳
はくしゃのとばり
作品ID55203
原題UNE DENTELLE S'ABOLIT
著者マラルメ ステファヌ
翻訳者上田 敏
文字遣い旧字旧仮名
底本 「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店
1962(昭和37)年12月16日
初出「アルス 一ノ五」1915(大正4)年8月
入力者川山隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2012-12-30 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


薄紗の帳たれてあれど、
こよなき「あそび」は思ふらく、
げにもゆゆしき涜かな、
徒なりや床は無し。

この一面に白妙の
房と房とのからみあひ、
蒼みて曇る玻璃の戸を
空しく打つて事も無し。

されど黄金の夢の身には
樂の音籠もる虚のなか、
琵琶悲しげに眠りゐて、

いづこの[#挿絵]か知らねども、
よそにはあらず、われとわが
胎より生るる子はあらむ。

註―― Une dentelle s'abolit の句を以て起るマラルメの難解詩を譯してみた。薄紗の帳白く垂れて輕く窓の板玻璃を打つ景を詩人が見て、之はどうしても帳中に伉儷の契淺からぬ相思の人の床が無ければならぬと「こよなきあそび」即ち藝術の方面から推察するところ、實は之が空しく、そこに何も無いと知つて、宛も冒涜の感を起すといふのが、初、二節の意である。然し「黄金の夢」即ち空想豐かなる詩人の胸には琵琶が常に藏れてゐる。この空想よりして詩人は外物の助をからず、われとわが身より物象を創作する、此場合について言はゞ、「床」を創作し得るのだ。この一篇の中心思想は藝術の特權を説いたところにあるのだらう。



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