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五本の指
ごほんのゆび
原題LES CINQ DOIGTS DE LA MAIN
著者
翻訳者上田 敏
文字遣い旧字旧仮名
底本 「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店
1962(昭和37)年12月16日
初出「アルス 創刊号」1915(大正4)年4月
入力者川山隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2012-12-12 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


これまでに誰一人身代限やお仕置になつたことの無い正しい家柄
「ジアン・ド・ニ[#挿絵]ルの家」

 親指は肉付豐かな弗羅曼の酒屋の亭主、根が瓢輕な巫山戯もの、三月釀造極上麥酒の招牌を出した戸口のとこで煙草をのんでる。

 人差指はその家婦だ。干鱈のやうに乾涸びた男まさり、朝つぱらから女中を打ちどほしだ、嫉けるのだらう、徳利は手を離さない、好きだから。

 中指は息子だ。地體、荒削の不器用に出來た體で、酒造人でなかつたら兵隊、人間に生れなければ馬にでもなつた男だ。

 藥指は此家の娘、身輕な小意氣なヅエルビイヌ、奧樣がたへは笹縁のれいすも賣るが、殿御に媚は賣り申さぬ。

 小指は家中の祕藏兒、泣蟲の小僧だが、始終母親の腰巾著になつて引摺られてゐるから、まるで啖人鬼女の口にぶら下る稚兒のやうだ。

 人間の手の五本の指は都ハルレムの花壇にかつて咲いた色珍らしい五瓣のにほひ阿羅世伊止宇。



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