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石工
いしく
原題LE MACON
著者
翻訳者上田 敏
文字遣い旧字旧仮名
底本 「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店
1962(昭和37)年12月16日
初出「芸文 六ノ三」1915(大正4)年3月
入力者川山隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2012-12-12 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


石工の長曰く、見よ、この稜堡を、この支柱を。
末代までの固と人はいふらむ。
シルレル「[#挿絵]ルヘルム・テル」

 石工アブラハム・クップフェルは鏝を片手に足場の上で歌つてゐる。隨分高く登つたものだ。大鐘の銘の文句を讀んでると、飛迫控の三十もあるこの御堂、御堂の三十もあるこの市と、同じ高さに足が來てゐる。

 ここに見る石鬼の樋嘴は石葺屋根の水を吐き出して、臺に、窓に、隅折上に、鐘樓に、櫓に、軒に、足場に、この入り雜つた深穴へ落すのだ。そこに鼠色の一點と見えるのは、廣げた儘のぎざぎざした兄鷹の鷹の羽。

 眼の下には、星形に切り開いた堡壘、菓子の身の雌鷄よろしくふん反り返つた城砦、噴水の涸れてゆく御殿の中庭、陰は常に柱を心に移動する僧院の[#挿絵]廊。

 皇帝の軍隊が郊外に宿營してゐる。あすこに一人の騎兵が太鼓を調べてゐる。アブラハム・クップフェルの處からも、あの三角帽、赤絲肩章、前立、色布で結いた辮髮の見別がつく。

 また其上に一群の兵隊が眼に入ひる。逞ましい枝振の羽根飾をした遊苑に、深緑の廣々した芝生の上で、竿の端に置いた木製の鳥を覘つて火繩銃の射的をしてゐる。

 さてその夜ここの伽藍の釣合のよく取れた本陣が、十字架形に腕を廣げて眠るとき、梯子の上から、はるかに遠くを望めば、軍兵たちが燒打にした一村の焔が夜天に尾を曳く彗星のやうだ。



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