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歌よ、ねがふは
うたよ、ねがうは
著者
翻訳者上田 敏
文字遣い旧字旧仮名
底本 「上田敏全訳詩集」 岩波文庫、岩波書店
1962(昭和37)年12月16日
初出「芸苑 二ノ一」1907(明治40)年1月
入力者川山隆
校正者成宮佐知子
公開 / 更新2012-11-26 / 2014-09-16
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


「歌」よ、ねがふは「愛」の神さがし求めて
かの君の前に伴ひ歌はなむ。
「歌」はわが身の言別を、主はかの君を
恐無く正眼に見つゝ語りなむ。

禮には篤き「歌」なれば、よしそれ唯の
ひとりにて、
げに往きぬとも、恐るべき事は無けねど、
安かれと、心知ひに伴ふや
「愛」の神
それ後見と傍らにあるこそよけれ、
かの君が「歌」の言の葉きゝ給ふ
その時なほも憤解けもやらぬを
介添の「愛」の執成無かりせば、
忽ちにして侮蔑の恥目あらむと。

「歌」よ、調も美しく「愛」に伴ひ
告げよかし、
まづ憐愍を、かの君に乞ひ得たるのち
『わが君よ、われを送りしかの人の
いひけらく、
この言開ねがはくば聞き給ひねと。
見よ「愛」は色よき君が力にて
思ふがままに、かの人の色を變らせ、
またよその淑女をこそ思はすれ、
思の底の眞心はつひに動かじ』。

また歌へかし『わが君よ、かれが心は
信かたく
君に仕ふるそのほかに二心無し、
夙よりぞ君に歸しぬ』と。かくてなほ
疑はゞ
重ねて歌へ『「愛」にこそ質し給へ』と。
終りには、いとしとやかに奏すべし
『このわが願つひにしもかなふことなくば
よしむしろかれが命を絶ち給へ、
君に仕ふるかれが身はゆめ背かじ』と。
立去る前に憐愍の鑰とも仰ぐ
「愛」をよび
わが思ふことつばらかに述べよと乞ひて
『この「歌」の調の報いえさせむと
かの君の
かたへにとまり、ねもごろに言別給ひ
かくて其願とどかば、かの君の
顏容いとも麗はしき樣を示せ』と。
貴なるや、なれ、わが「歌」よ、心あらば
かくも歌ひて、とこしへの譽をあげよ。



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