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或るまどんなに
あるまどんなに
副題西班牙風の奉納物
スペインふうのほうのうぶつ
著者
翻訳者富永 太郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「富永太郎詩集」 現代詩文庫、思潮社
1975(昭和50)年7月10日
入力者村松洋一
校正者岩澤秀紀
公開 / 更新2013-04-07 / 2014-09-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 わたくしのつかへまつる聖母さま、おんみの為に、わたくしの悲しみの奥深く、地下の神壇を建立したい心願にござります。
 わたくしの心のいと黒い片隅に、俗世の願ひ、また嘲けりの眼の及ばぬあたり、おんみのおごそかな御像の立たせまするやう、紺と金との七宝の聖盒をしつらへたい心願にござります。
 懇ろに宝石の韻をちりばめた、純金属の格子細工のやうに、琢きあげたわたくしの詩で、おんみの御頭の為に、大宝冠を造るでござりませう。
 またわたくしの嫉妬の布地で、永遠ならぬ聖母さま、おんみの為に、外套を裁つでござりませう。仕立ては品あしく、ぎごちなく、不恰好で、なほまた裏地は疑ひの心でありまする故、隠処のやうにおんみのあでやかさを包み隠すでござりませう。縁も真珠ではござりませぬ、ありとあるわたくしの涙の玉で縁どりまする。
 おんみの聖衣は打慄へて波をうつわたくしの欲望で造りまする。わたくしの欲望は高くまた低く、皺襞の高みでは打揺ぎ、谷間では鎮まりまするが、白と薔薇色のおんみの御体を一様に接吻で被ひまする。
 わたくしは神々しいへりくだつた御足の為に、わたくしの敬ひの心で美しい繻子の御靴を造りまする、善い鋳型が形を守る如く、しつくりと御足を抱き裹みまするやう。
 丹精こめた効もなく、銀の月を鏤つて御足の台とすることがかなひませぬならば、わたくしの腸を噛む蛇を御かかとの下に置くでござりませう、いとさはに罪を贖ひたまふ、栄光ある女王さま、憎悪と唾液とに脹れあがつたこの妖怪をおんみの踏み弄びまするやう。
 処女たちの女王のゐます、花飾りした神壇の前の大蝋燭のやうに、立ち列ぶわたくしのもろもろの想念が、星のやうに空色の天井に照り映えて、燃ゆる眼で飽かずおんみを凝視るをみそなはすでござりませう。
 わたくしの内なるものは、なべておんみを慈しみ、讃めたゝへまする故、なべては安息香となり、沈香となり、乳香、没薬となるでござりませう。
 また、暴風雨のやうに立ち騒ぐわたくしの精霊は、霧となつて、まつしろな雪の峯なるおんみの方へ、絶え間なくたち騰るでござりませう。

 さておんみが瑪利亜の役を完うし、かつはまた、おんみかぐろい快楽よ、七戒を破る蛮気をいとしさに混ぜ合はさうとて、悔恨に満ちたわたくし死刑執行人は、七本の刃を研ぎすまし、いと深いおんみの愛をとつて柄となし、ひくひくと鼓つおんみの心の臓に、啜り泣くおんみの心の臓に、血を噴き上ぐるおんみの心の臓に、奇術師の無感覚もて七本ながら立てゝしまふでござりませう。



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