えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

癲狂院外景
てんきょういんがいけい
作品ID55485
著者富永 太郎
文字遣い新字旧仮名
底本 「富永太郎詩集」 現代詩文庫、思潮社
1975(昭和50)年7月10日
入力者村松洋一
校正者川山隆
公開 / 更新2014-04-16 / 2014-09-16
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より


夕暮の癲狂院は寂寞として
苔ばんだ石塀を囲らしてゐます。
中には誰も生きてはゐないのかもしれません。

看護人の白服が一つ
暗い玄関に吸ひ込まれました。

むかふの丘の櫟林の上に
赤い月が義理で上りました
(ごくありきたりの仕掛です)。

青い肩掛のお嬢さんが一人
坂をあがつて来ます。
ほの白いあごを襟にうづめて
脣の片端が思ひ出し笑ひに捩ぢれてゐます。

――お嬢さん、行きずりのかたではありますが、
石女らしいあなたの眦を
崇めさせてはいたゞけませんか。
誇らしい石の台座からよほど以前にずり落ちた
わたしの魂が跪いてさう申します。

――さて、坂を下りてどこへ行かうか……
やつぱり酒場か。
これも、何不足ないわたしの魂の申したことです。



えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko