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軍服を着た百姓源造の除隊
ぐんぷくをきたひゃくしょうげんぞうのじょたい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
初出「プロレタリア 創刊号」1930(昭和5)年十二月号
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-02-15 / 2015-01-16
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


「おお源造よ 帰って来たか」
つまごをはき、雪路を踏んで、馬橇の上で別れて行ったあの日、
「俺あクジ逃れだ、俺には只一人のお母がいる、お母はおいぼれ……」
「でも源造よ、お上はお前や俺等のために、どうにもなんめいぞ、誰ぞと代って下されと、あれ程ねがったんだに
 仕方のねい世の中だ
 諦められない世の中よ
 そんだば、元気で行ってこう
 源造よ、元気でだぞお!」

戦争におびやかされ
戦争は明日にもあるらしい
『戦争が初まったら……』
将校は勲章をかぞえ、拍車を磨き、サーベルをさすっていた
そして精神講話に武士道の物語りをのべた。
支那が戦場の夢に出て、
ロシアが理屈で出しゃばり出す、
地図のアジアは将校の馬蹄にじゅうりんされ
夢将校の栄誉は未来永劫。

二年目に帰ってきた源造、
帰れば部落は積雪の下
霜枯れた草木の眠れる山野
雪路を踏み、馬橇の上、
「おお源造、お前は上等兵かよ」
「ええ俺あ二等卒だよ」

血書血判で兵隊になりたい奴もある世の中、
(不景気だからな
 兵隊になりゃ喰うだけ喰えるからよ)

源造よ
お前は知ってるか
今年は豊作だなんて
どこのどいつの宣伝だか
あの稲束を見て見ろや
あんでも豊作だと どの野郎だ
たとえ豊年万作だとて
俺等の楽する秋があったか?
どこのどいつが何するために
俺等の米は奪り上げる!
源造よ
お前は村へ帰った兵隊さんだ
お前はその訳知ってべよ

俺あ営舎じゃガン張ったよ
俺あ三十九度の熱が出て
どうにもこうにもなんねい位
そんでも俺あ将校奴の長靴を磨かされた
びしょ雨の中に空ッ腹を抱えて
真夜中の強行軍だ
何でこんなに戦争がやりたいのか?
誰と誰との戦争がほんとに必要なのか?
誰も彼も、最初は知らずにいる
――知れたらこれこそ大変だ!
そいつをカンゴクの兄貴は知ってたんだ
今は俺あも知ってる、あいつも知ってる
兄貴の知ってるロシアの話。
俺あ今こそそいつがのみこめる
不景気だ
どん底へ落ちて行く百姓、それからプロレタリア――街の労働者達

源造よ
部落じゃ、ネング、税金、借金まけろ!
月給泥棒の俸給を下げろ
支払延期、減免だ
小学児童の同盟休校だ
地鳴りのように反抗の叫びがもり上ってる
それでも十二月の年のくれの
雪に埋もれた淋しい百姓の生活が
どこまでも追われて行くんだ
俺等の部落はお前の除隊を待ってた
源造よ
お前はこれからしっかり
奮張ってけれ!
奴等がどないにしようとも
お前は俺等の戦争に加わるんだ!
勇敢な俺等の兵隊で、一兵卒の
軍服を着た百姓源造よ
ガッチリと頑張ってけれ!
兄貴がカンゴクで待ってべぞお!



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