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伊豆の伊東へ
いずのいとうへ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
初出「旭川新聞」1929(昭和4)年9月19日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-01-19 / 2015-01-06
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


地図を見ればここは伊豆
伊豆の温泉、伊東の町
熱海より五里余
汽車もなければ
そびえ立つ岩肌を穿ち堀りけずり
辛くも自動車の往来する
これこそ羊腸の道
怪異の岩礁出でて
緑の松腰を折れば
そこは眺望絶佳といわれて
ラムネ、レモンを売る
腰掛茶屋も並びあり
異人の女一人遠き伊豆の山肌を写しており
伊豆の山の美しさは
われをして故郷にある貧しけれど情みつる
母の心情のうるおいを憶しめ
病児をいたわるはここぞと思わしむ
陽高ければ海青く
海の上はるか彼方に煙見ゆるは
伊豆の大島ぞと同じく行く人の語る折
さて我は旅人なりと感ずるに
胸にせまる哀傷せつなく
網代をすぎ、伊東にいたるを心待つ

八月初旬、蜜柑 真青に
さるすべり残りの花を咲かせ
ざくろは今年南方の風を恋て
多分に実らす
竹林に七夕の竿を伐る人わけ入る
ここは温暖の国、温泉の街
一人見知らぬ町の路上に降り立てば
間もなく兼て迎える人あり、心強し

ここ三面は山、一面は海
海上に初島と呼ぶ共産島浮かぶ
伊東よ、病児を養い
再び、われをたたしめよ
地図を見れば、ここは伊豆
伊東の町、伊豆の温泉
悔いなき旅人と信ずれども
もとより貧しき者を
尚も貧しく困窮へと導く勿れ!
我病児は遂に癒えざるべし。

一九二八年夏伊東にて



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