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写真(北満の土産)その二
しゃしん(ほくまんのみやげ)そのに
作品ID55571
著者今野 大力
文字遣い新字新仮名
底本 「今野大力作品集」 新日本出版社
1995(平成7)年6月30日
入力者坂本真一
校正者雪森
公開 / 更新2015-03-08 / 2015-02-17
長さの目安約 1 ページ(500字/頁で計算)

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本文より


貴族の表情をこさえるために
ハルピンの白系露人の女は
ジーッと物を見すえてうっかり動揺の見にくさを見せまえとし、古い宝石の腕輪や首かざりやピンに品物以上を物語らせようとし、
窮屈なほど口元をすぼめて上品さを見せんとしている。

いくら金髪で、純粋のロシア人であっても
このロシア人はちっとも値打のないロシア人
今の世界中でロシア人の値打は
社会主義サヴェート共和国を建設して
絶大な成功と自信とを握っているところにあるんだが
いまだに帝制の昔にかえる日を夢見ている
この女達の貴族的な行儀や作法や表情や
そんなことを何か得がたい値打のように
あこがれている、ブルジョア根性の奴等は
どこかにいないか
その写真の女は
ハルピンのカフェーに
うようよと、ねたましそうに憎らしそうに
母国のロシアを見返している値打のないその女達だ。



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