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右門捕物帖
うもんとりものちょう
作品ID556
副題13 足のある幽霊
13 あしのあるゆうれい
著者佐々木 味津三
文字遣い新字新仮名
底本 「右門捕物帖(二)」 春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年9月15日
入力者tatsuki
校正者kazuishi
公開 / 更新2000-01-21 / 2014-09-17
長さの目安約 51 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1

 ――今回は第十三番てがらです。
 それがまた妙なもので、あとを引くと申しますのか、それともこういうのがまえの世からの約束ごととでも申しますのか、この十三番てがらにおいて、ひきつづき、またまたあのあばたの敬四郎がおちょっかいを出して、がらにもなく右門とさや当てをすることになりましたから、まことに捕物名人としては、こうるさい同僚をかたき役に持ったというべきですが、事の端を発しましたのは、二月もずっと押しつまって、二十八日の朝でした。
 しばしば申しますとおり、二月は二月であっても旧暦の二月なんだから、もう少しはぽかぽかしてもいっこうに不思議はないはずですが、それにしてもちょっと狂い陽気で、おまけに朝からしとしとと、絹糸のような小ぬか雨です。いきにいえば、忍び音の糸もみだるる春の雨――というあの雨なのですが、あいきょう者の伝六は来ず、たずねていくべき四畳半はなし、せっかくいきな春雨が降るのに、寝ころがってあごばかりまさぐっていても芸のない話だと思いつきましたものでしたから、ふと右門の気がついたところは、このごろ席を始めたという向こう横町の碁会席でありました。
 さいわいご番所は非番でしたので、まだちっと時刻が早すぎるとは思いましたが、久方ぶりにしみじみと碁でも打ちながら、いきな春雨に聞きほれるのも時にとっての風流と思いましたものでしたから、じゃのめを片手になにげなく表へ出ると、ところがその出会いがしらに往来ばたに、何がけげんでならないものか、しきりと首をひねりながらたたずんでいた者は、だれでもないあいきょう者のその伝六でした。根が伝六のことだから、そのひねり方というものがまた並みたいていではないので、傘もささずに絹雨を頭からしょぼしょぼと浴びながら、しきりと町の向こうをながめながめ、右へ左へいとも必死にひねりつづけていたものでしたから、ちょっと右門も不審に思って呼びかけました。
「大将ッ。おい、伝六大将ッ」
「えッ?」
「そっちじゃねえ、うしろだよ、うしろだよ。おれじゃねえか、おれがわからねえのか」
「あッ、だんなでござんしたか! いいところへおいでなさいました。ちっと、どうも不思議なことがあるんですがね」
「なんでえ。からかさ小僧でも通ったのか」
「ちぇッ、あっしがまじめな口をきくと、いちいちそれだからな。ね! 今、あばたのやつこが通ったんですよ」
「なにも不思議はねえじゃねえか。あいつにだって足は二本くっついてるぜ」
「きまってまさあ。その二本の足で、いやに目色を変えながら、走っていきゃあがったから、いっしょうけんめいで頭をひねっているんですよ」
「というと、なにかい、いくらか事件のにおいでもするというのかい」
「する段じゃねえ、ひょっとすると、何かでか物じゃねえかと思うんですがね。だって、あのやつこもきょうは非番のはずでがしょう。しかるにも…

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