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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題083 鉄砲汁
083 てっぽうじる
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十三卷 焔の舞」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年9月5日
初出「オール讀物」文藝春秋社、1938(昭和13)年12月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-06-28 / 2014-09-16
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



「親分、近頃金の要るやうなことはありませんか」
 押詰つたある日、錢形平次のところへノツソリとやつて來たガラツ八の八五郎が、いきなり長い顎を撫でながら、こんなことを言ふのです。
「何だと? 八」
 平次は自分の耳を疑ふやうな調子で、長火鉢に埋めた顏をあげました。
「へツ/\、へツ/\、さう改まつて訊かれると極りが惡いが、實はね、親分。思ひも寄らぬ大金が轉がり込んだんで」
「大きな事を言やがる。お上の御用を承はる者が、手弄などしちやならねえと、あれほどやかましく言つて居るぢやないか」
「博奕なんかで儲けた金ぢやありませんよ、飛んでもない」
 ガラツ八は唇を尖らせて、大きく手を振りました。
「それぢや、富籤か、無盡か、――まさか拾つたんぢやあるまいな」
「そんな氣のきかない金ぢやありませんよ、全く商法で儲けたんで」
「何? 商法? 手前がかい」
「馬鹿にしちやいけません、かう見えても算盤の方は大したもので。ね、親分、安い地所でもありませんか、少し買つて置いてもいゝが――」
「馬鹿野郎、二朱や一分で江戸の地所が買へると思つてゐるのか」
「二朱や一分なら、わざ/\親分の耳には入れませんよ。大晦日が近いから、少しは親分も喜ばしてやりてえ――と」
「何だと?」
「怒つちやいけませんよ、ね、親分。錢形の親分は交りつけのねえ江戸つ子だ。不斷は滅法威勢がいゝが、宵越の錢を待ちつけねえ氣前だから、暮が近くなると、カラだらしがねえ。さぞ今頃は青息吐息で――」
「止さねえか、八。言ひ當てられて向つ腹を立てるわけぢやねえが、人の面をマジマジと見乍ら、何てエ言ひ草だ」
 平次も呆氣に取られて、腹を立てる張合ひもありません。それほど、ガラツ八の調子は、ヌケヌケとして居りました。
「箱根ぢや穴のあいたのを用立てたが、今日のはピカリと來ますぜ。親分、此通り」
 さう言ひ乍らガラツ八は、内懷から拔いた野暮な財布を逆にしごくと、中からゾロリと出たのは、小判が七八枚に、小粒、青錢取交ぜて一と掴みほど。
「野郎、何處からこれを持つて來やがつた」
 平次は矢庭に中腰になると、長火鉢越しに、ガラツ八の胸倉をギユーツと押へたのです。
「あ、親分、苦しい。手荒なことをしちやいけねえ」
「何をツ、此野郎ツ。何處で盜んで來やがつた、眞つ直ぐ白状しやがれツ」
 平次の拳には、半分冗談にしても、グイグイと力が入ります。
「盜んだは情けねえ、親分、こいつは間違ひもなく商法で儲けた金ですよ」
 ガラツ八は大袈裟に後手を突いて、斯う辯解を續けました。
「岡つ引に商法があつてたまるものか。盜んだんでなきや、何處から持つて來た。さア言へツ」
「言ふよ、言ひますよ、――言はなくて何うするものですか、――おう痛てえ、喉佛がピリピリするぢやありませんか」
「喉佛の二つや三つローズにしたつて構ふことはねえ。さア言へ」
「驚いた…

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