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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題100 ガラツ八祝言
100 ガラッぱちしゅうげん
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第十六卷 笑ひ茸」 同光社磯部書房
1953(昭和28)年9月28日
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2014-03-03 / 2014-09-16
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 ガラツ八の八五郎が、その晩聟入をすることになりました。
 祝言の相手は金澤町の酒屋で、この邊では有福の聞えのある多賀屋勘兵衞。嫁はその一粒種で、浮氣つぽいが、綺麗さでは評判の高いお福といふ十九の娘、――これが本當の祝言だと、ガラツ八は十手捕繩を返上して、大店の聟養子に納まるところですが、殘念乍らそんなうまいわけには行きません。
 實際のところは、その晩聟入りの行列などを組んで歩いたら、命を奪られるかも知れないといふ、――眞實の聟、仲屋の伜錦太郎に頼まれて、いや/\乍らガラツ八は、聟入の贋物になることを引受けさせられてしまつたのです。
 この頼みが持込まれたとき、さすが暢氣者のガラツ八も、再三辭退しました。が、錦太郎の頼みが如何にも眞劍で、涙を流さぬばかりに拜むのと、親分の錢形平次が、多賀屋の身上、主人勘兵衞の評判から、娘お福の行状、それから聟の仲屋の暮し向きから、錦太郎の人柄まで調べ拔き、『成程これは、うつかり祝言をさせられない』といふことが解り、自分からもガラツ八を説いて、『いざ三々九度の杯といふ時、眞物の聟の錦太郎と入れ替はらせるから』といふ條件で、漸く聟入の僞首になることを承知させたのでした。
 祝言は多賀屋の身代にしては出來るだけつゝましやかに、當日の客は餘儀ない親類を五六人だけ、聟入りもほんの型ばかりといふことにして、僞首の八五郎が、仲人寳屋祐左衞門夫婦に護られ、駕籠の垂を深々とおろして、多賀屋へ乘込んで行つたのは、秋の宵――酉刻半そこ/\といふ早い時刻でした。
 途中は平次の子分や、ガラツ八の友達が多勢で見護り、行列は先づ何の障りもなく多賀屋の門口を入りました。紋切型の挨拶を上の空に聞いて、奧へ通されると親分の平次が、恐ろしく眞面目腐つた顏をして迎へてくれます。
「どうだい八、滿更惡い心持ぢやあるめえ」
 最初の平次の言葉はこんな調子でした。
「變な心持ですよ、親分」
「あやかりものだよ、――化け序にもう少しその儘にしてゐてくれ。眞物の聟は陽が暮れると直ぐ此處に來て居るが、肝腎の嫁の支度が出來ない。三々九度はいづれ一刻も後のことだらう、その時はお客樣で鱈腹呑むが宜い」
「呑んだつてつまらねえ」
「ひどく落膽するぢやないか、――だがな八。聟にもよりけりだが命を狙はれる聟なんてものは、あまり有難くないぜ」
「有難くなくたつて、僞首よりは器量が良いぢやありませんか」
「まア、さう言ふな」
 ガラツ八の不滿は、平次も察しないではありませんが、斯うするより外に術のない切羽詰つた情勢だつたのです。
「親分は、いろ/\の事を調べたんでせう」
「まア、調べたつもりだ」
「誰が一體聟を殺さうなんて氣持になつて居るんで――」
 聟の錦太郎が青くなつて平次のところへ飛込んだのは知つてゐますが、深い事情はガラツ八もよくは知らなかつたのでせう。
「金澤町の若い男は…

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