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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題249 富士見の塔
249 ふじみのとう
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第二十九卷 浮世繪の女」 同光社
1954(昭和29)年7月15日
初出「オール讀物」文藝春秋新社、1951(昭和26)年2月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2017-07-17 / 2017-07-17
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



「親分、金持になつて見たくはありませんか」
 八五郎はまた途方もない話を持ち込んで來たのです。やがて春の彼岸に近い、ある麗らかな日の晝過ぎ。
「又變な話を持つて來やがる、俺は今うんと忙しいところだ。金儲けなんかに取合つちや居られねえよ」
「何が忙しいんです、――はたで見ると隨分呑氣さうですね。日向に寢そべつて本なんか讀んでゐて」
「それが忙しいんだよ。曾我の五郎が助かるか、殺されるかといふところだ――」
「そいつは、何處の親類で?」
「曾我物語といふ本に書いてある話だよ。俺の親類の五郎さんぢやねえやな」
 平次は自若として、まだ物の本に讀み耽つて居ります。
「呆れたものだ。そんな心掛けだから、親分は何時までも貧乏してゐるんですぜ」
「あれ、變なことを言ふぢやないか。お前は今日、俺に意見をするつもりで來たのか」
「そんなつもりぢやありませんがね。こいつは、鼻の先にブラ下がつてゐる金儲けですぜ。ちよいと親分が知識を働かしてくれさへすれば――」
「お斷りだよ、八。俺はそれどころぢやないんだ」
「五郎さんが死ぬか生きるか――といふ話でせう。それはそれとして、兎に角、この話を聽いて下さいよ。親分が乘り出す出さないは別として、あつしの仕事だと思つて、ちよいと相談に乘つて、女の子を二三人助けてやつて下さいよ」
「あれ、今度は泣き落しと來たのか。金儲けが餌ぢや俺は不精になるばかりだが、八に泣かれちや、そつぽを向いて居るわけにも行くまい、――一體どこの國にでつかい金山があるんだ」
 平次は漸く本を閉ぢて、八五郎の方に向き直りました。日向の梅は丁度咲ききつて、屋根に燃える陽炎が、うつら/\と眠りを誘ひます。
 何處かで鳴る初午の太鼓。
「有難いね、親分が乘り出してくれさへすれば、こんな話は朝飯前に片付きますよ。うまく行けば、褒美の金が百兩――怒つちやいけませんよ。あつしだつてそんな目腐れ金なんか當てにして居るものですか、三人の女の子の喜ぶ顏を見て――」
「百兩が目腐れ金か、八五郎も氣が大きくなつたぜ。でも、そんなものより、三人の女の子の喜ぶ顏が見たいといふのは嬉しいな」
「尤も、三人のうちの一人は取つて五十三になる」
「恐ろしくふけた女の子ぢやないか、兎も角、その女の子は何處に居るんだ」
「親分も知つて居なさるでせう、十二社の榎長者――新宿から角筈へかけて、一番大地主で、家には鎌倉の執權とかの、お墨附を持つて居る」
「知つてゐるとも、當主は太左衞門とか言つた筈だ」
「その太左衞門は一年前に亡くなつたが、何百年も溜めた寳が、どう積つても萬とある筈だといふので、家中の者から遠い近い親類まで寄つて、天井裏から床下、屋敷の居廻り何萬坪といふ大地の皮まで引つ剥がして見たが、小判の片らも出て來ない」
「よくある奴だよ」
 平次は一向氣の乘らない顏で聽いて居ります。銀行も有價證劵もなか…

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