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銭形平次捕物控
ぜにがたへいじとりものひかえ
副題164 幽霊の手紙
164 ゆうれいのてがみ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「錢形平次捕物全集第三十八卷 江戸の戀人達」 同光社
1955(昭和30)年1月5日
初出「月刊西日本」1946(昭和21)年8月号
入力者特定非営利活動法人はるかぜ
校正者門田裕志
公開 / 更新2017-11-01 / 2017-10-25
長さの目安約 42 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 江戸開府以來の捕物の名人と言はれた錢形の平次が、幽靈から手紙を貰つたといふ不思議な事件は、子分のガラツ八こと、八五郎の思ひも寄らぬ縮尻から始まりました。
「親分、近頃は暇ですかえ」
「なんて挨拶だ。いきなり人の前へ坐つて、懷手をしたまゝ長い頤を撫でながら――暇ですかえ――といふ言ひ草は?」
 平次は脂下りに噛んだ煙管をポンと叩くと、起き上がつてこの茫とした子分の顏を面白さうに眺めるのです。
「錢形の親分が、この結構な日和に籠つて、寢そべつたまゝ煙草の烟を輪に吹いてゐるんだから、暇で/\仕樣がないにきまつて居るぢやありませんか」
「馬鹿だなあ、だからお前はまだろくな仕事が出來ないのだ。斯う寢そべつて煙草の烟を輪に吹いてゐる時こそは、こちとらが一番忙しく働いて居る時なんだ」
「へエ――」
「クルクル動いて居る時は、ありや遊びさ。斯う呑氣さうにして居る時こそ、ありつたけの智慧を絞つて、惡者と一騎討の勝負をして居る時だよ」
「へエ――、一體その惡者は何んな野郎なんで?」
「大層感心するぢやないか、あんまり眞に受けられると引つ込みが付かなくなるが、なアに、そんなたいした相手ぢやない。お前も知つての通り、深川島田町の佐原屋の支配人殺しの一件だが、下つ引任せでまだ下手人が擧らねえから、いよ/\俺も御輿を上げなきやなるまいと思つて居るところよ」
「實はその事なんですがね、親分」
「何んだ、いきなり膝なんか乘り出して」
「その佐原屋の騷動とは、一萬兩とかの金の行方が絡んでゐるさうぢやありませんか」
 八五郎の眼の色は少し變つてをります。
「それがどうしたといふのだ」
「あつしは古いことはよく知りませんが、何んでも五年前に死んだ佐原屋の主人甚五兵衞が隱して置いた、一萬兩といふ大金の在所を嗅ぎ出したので、支配人の專三郎が殺されたに違ひない、――首尾よく下手人を捉まへて、一萬兩の金を搜し出せば、千兩の褒美を出す――つて、あの店の采配を振つてゐる、主人の弟の小豆澤小六郎といふ浪人者が言つたさうぢやありませんか」
「フーム」
「先刻お神樂の清吉の野郎が眼の色を變へて飛んで行きましたよ。『千兩の褒美はこの清吉がきつと取つて見せる、濟まねえが八兄哥後で文句は言はないでくれ』つて、癪な言ひ草ぢやありませんか。だからあつしは、親分が暇で仕樣がないなら、一番乘り出してその千兩の褒美をせしめ――」
「馬鹿野郎」
「へエー」
 いきなり馬鹿野郎を浴びせられて、八五郎は首を縮めました。この時平次は三十を越したばかり、子分と言つても八五郎は二つか三つ歳下といふだけのことですが、智慧も貫祿も男前も、違ひ過きる[#「過きる」はママ]ほど違つて居るのでした。
「金を目當の仕事なんぞ、眞つ平御免蒙るよ。お上の御用は勤めてゐるが、褒美の金なんかに釣られてウロウロするやうなそんな野郎は大嫌ひだ。さつさと歸つ…

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