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夜汽車の食堂
よぎしゃのしょくどう
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」 角川書店
2003(平成15)年11月25日
入力者村松洋一
校正者noriko saito
公開 / 更新2015-03-26 / 2015-02-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)
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本文より


 雪の野原の中に、一条のレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。
 そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。
 その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカと明つて燈つてゐました。其処に僕はゐて、お魚フライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。僕が背ろを振り向くと、会計台の所には、白い上衣のボーイが一人立つてゐて、列車の動揺に馴れ切つた脚つきで、でもシヤチコバつて立つてゐるのでありました。僕のほかにはお客は誰も居なく、どうしたことか、女給も一人も見えないのでした。
 僕が美味しい美味しいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きい[#挿絵]ーレをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた、大きなアメリカの小母さんが這入つて来ました。そして僕の耳を引つ張つて、僕の頭を揺すぶりながら、「そんなにレモンをかけて食べる人ありますか!」と云ふのでした。
 僕は怖くなつて、とてもそのアメリカの小母さんの顔が見てはゐられなくなつて、窓の方に眼を向けると、雪の原には月が一面に青々と光つて、なんだか白熊たちは雪達磨をこしらへてゐるのでした。
 汽車は相変らずゴーツといつて、レモンは僕の目にしみて、僕はお母さんやお父さんを離れて、かうして一人でお星の方へ旅をすることが、なんだか途方もなくつまらなくなるのでありました。
 汽車はゴーツといつて、青い青い雪の原を、何時までも停まらず走り続けました。
 僕は段々睡くなつて、そのうち卓子の上に伏せつて眠りましたが、するとお庭の椽側のそばの、陽を浴びた石の上で、尾を立てたり下ろしたりしてゐる、プチ公(犬の名)の夢を見るのでした。女中はこれから郵便局に、手紙は出しに行つて来ると云ふのでした。



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