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春水と三馬
しゅんすいとさんば
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「エッセイの贈りもの 1」 岩波書店
1999(平成11)年3月5日
初出「図書」岩波書店、1939(昭和14)年1月
入力者川山隆
校正者岡村和彦
公開 / 更新2013-08-23 / 2014-09-16
長さの目安約 9 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 斯様な標題を掲げたが、何もこんな陳腐な題目で柄にもない文学論を試みようとするのではない。「図書」という雑誌の性質に鑑み、此二人に関係ある書物に就て閑談を弄したいと思うのである。
 私の家に子供の折から見慣れて居た二つの草双紙絵本がある。一は為永春水の『絵入教訓近道』で、一は式亭蔵書印のある『赤本智恵鑒』である。何時何処で父が購求したのか、つい聞洩して仕舞ったが、或は祖父の江戸土産を後年父が出京の際郷里から携えて来たのか、とにかく私の物心ついた時から常に見慣れたもので、私に取っては種々想出の料となるものである。前者がイソップの換骨奪胎であることは明白であり、然も其が春水の作という所に興味があるし、後者は名家の手沢本として私の貧弱な書斎を飾るものと思って居た。然し三馬の蔵書はざらに世間にあるということだし、春水の翻案はイソップ研究に何の値もないものであるから、何れもただ私一人だけの感興を喚起すだけであるが、其後春水翻案の方は専門家の側にも珍重せられて来たので、此機会に三馬と道連れにして雑誌の埋草に使用する。
『絵入教訓近道』は題名の如く春水が教訓を標榜した草双紙であるが、然し此場合の教訓は誨淫の書といわれる人情本を勧善懲悪などというよりも名実相副うものであろう。全篇悉くイソップ物語から取ったのではなく、中には明白に『世説』とか『説苑』とかと出所を挙げた説話もあるが、「蟻と蝉」「狐と鶏」「京都の鼠と田舎の鼠」「狼と羊」「狐と獅子」等著名の寓話は皆明にイソップ種である。然も其の挿絵には是等諸動物を人間に見立て、首だけが狐や狼になって居る。着物は其れぞれ適切な村人や遊人の姿などになって居るし、狼は如何にも悪党らしく、狐は奸智に長けた風になって居る、など中々巧みである。其内獅子王だけは唐服を着して居り、又蟻は頭の上に止ったように描かれてあるのが子供心に殊に面白かった。文章は句読なしの総仮名で、頗る読み難いことは普通の草双紙の通りであるが、然し絵といい文章といい、よくも咀嚼して日本流或は寧ろ戯作本流にしたものだと思う。文禄時代の羅馬字訳を初とし慶長元和以来古活字本となり、其他の諸版で世間に流布したのが、遂に此戯作者の筆にまで伝ったことは、また文壇の一奇談といわなければならぬ。
 今試みに「蟻と蝉の話し」の一節を引用する。挿絵には、頭の月代の所に蟻を戴いた亭主が妻子と共に梨のシンや茄子のヘタなどを乾して日和ぼこりをして居る所へ、蝉を頭に戴いた男が悄然として訓戒を受けて居るさまが描かれてある。其文章には、

 頃は冬の初にて日なたほしき時分なりしが、或日蟻穴より出て、たくはへの餌食を干して居る所へ、あなたの木の枝より蝉一つとび来つて蟻に向ひ、さて/\其許は冬枯の時分まで餌食の貯蓄あるはまことに羨しきことなり、我にも少し分けて下さらぬか、といへば、蟻答へていふやう、蝉殿には春…

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