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マカーガー峡谷の秘密
マカーガーきょうこくのひみつ
原題THE SECRET OF MACARGER'S GULCH
著者
翻訳者妹尾 アキ夫
文字遣い新字新仮名
底本 「山岳文学選集九 ザイルの三人」 朋文堂
1959(昭和34)年6月30日
入力者sogo
校正者枯葉
公開 / 更新2016-04-19 / 2016-03-04
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 マカーガー峡谷は、インディアン山から、まっすぐに九マイル西北の地点にある。峡谷とはいうものの、じつはあまり高くもない、木のはえた二つの尾根にはさまれたくぼみにすぎず、上流の口から下流の口まで――峡谷も河とおなじように、それ自身の構造をもっていて、かみてとしもてがある――長さ二マイル以上ではなく、幅も十二ヤード以上のところは、一ヵ所しかない。というのは、冬は流れるが、春さきになると乾く渓流がまんなかにあって、その両岸にほとんど平地がないからである。そして、山の急斜面には、ほとんど歩くこともできぬほど、マンサニータや、ケミサルがしげっていて、それが渓流の岸までつづいている。だから、まれにマカーガー峡谷に足を踏みいれるのは、ちかくの大胆な猟師ぐらいのもの、五マイルも離れると、峡谷の名を知った者すらない。それというのも、この峡谷より、もっと珍らしいところで、名さえついていないのが、この付近にたくさんあるからなのだ。土地のものにこの峡谷の名の起りをきいても、誰も満足にはこたえてくれない。
 ところで、この峡谷の入口から出口までのあいだの、ほぼまんなかに当るあたりに、下流からみて右がわに、一つの水のない峡谷が枝のように分れていて、その分岐点に、三エーカーぐらいの平地があり、そこに数年まえ、板かこいの、一部屋の家が立っていた。それはまるで小屋のような小さい家にはちがいないが、どうしてこんな近づきがたい地点に、建築材料をはこんだかという問題は、考えてみたところで仕方はなかろうが、いちおう興味をそそる事柄にちがいない。おそらく河床を道として使ったのだろう。たぶん採鉱の目的で、この峡谷をくわしく調査したことがあって、その時道具や補給品を馬かなにかで運んだのだろうが、製材所のある町とこの峡谷をつなぐ費用にくらべ、利潤のすくない見きわめがついたのだろう。でも、とにかく家だけは残った。そして、残った家のドアや窓枠はなくなり、土と石でつくった煙突は、むざんに崩れて、そのうえに雑草がはびこっている。いぜんは粗末な家具ぐらいはあったのだろうが、そんなものは、壁板の下のほうとともに、猟師たちの燃料となってしまったらしい。家のそばに、幅の広い、底の浅い古井戸があるが、そのふち石でさえ、いまはなくなっている。
 さて、私が乾いた河床をつたって谷をさかのぼり、このマカーガー峡谷にはいったのは、一八七四年、夏のある日の午後のことであった。峡谷のなかに家のあることは聞いていなかったが、そのあたりまでたどりついた私は、すでに獲物袋のなかに、射ち落した一ダースばかりのうずらをいれていた。私は大した興味ももたず、その廃屋をちょっとのぞいてみたあとで、また猟をつづけた。日暮ちかくなると、人家の遠いことに気がついた。明るいうちに人家をさがすことは、できそうもなかった。しかし、考えてみると、獲物袋には食物がある…

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