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一本刀土俵入 二幕五場
いっぽんがたなどひょういり にまくごば
作品ID56081
著者長谷川 伸
文字遣い新字新仮名
底本 「長谷川伸傑作選 瞼の母」 国書刊行会
2008(平成20)年5月15日
初出「中央公論」1931(昭和6)年6月号
入力者門田裕志
校正者雪森
公開 / 更新2018-03-15 / 2018-11-29
長さの目安約 49 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

〔序幕〕 第一場 取手の宿・安孫子屋の前
     第二場 利根の渡し
〔大詰〕 第一場 布施の川べり
     第二場 お蔦の家
     第三場 軒の山桜


駒形茂兵衛   老船頭    筋市
お蔦      清大工    河岸山鬼一郎
船印彫辰三郎  お君     酌婦お松
船戸の弥八   いわしの北  同 お吉
波一里儀十   籠彦     博労久太郎
堀下げ根吉   おぶの甚太
伊兵衛・女房おみな・料理人・帳付け・通りがかりの人々・近所の人々・赤金の升・盆持ちの良・渡しの船夫・渡しの客・子守子(一・二)・八公・買物の男女・そのほか。
[#改ページ]


〔序幕〕




第一場 取手の宿・安孫子屋の前

常陸の国取手は水戸街道の宿場で利根を越えると下総の国。渡しはそこの近くにある。
取手の宿場街の裏通りにある茶屋旅籠で安孫子屋の店頭は、今が閑散な潮時外れである。それは秋の日の午後のこと。

(安孫子屋は棟の低い二階建で、前と横とがT字型に往来になっている。角店のこの家は突ッつきが広い土間、その他は外から余り見えない。階下と二階の戸袋は化粧塗りの、漆喰細工で、階下は家号を浮きあがらせた黒地に白、二階は色漆喰の細工物で波に日の出)
(安孫子屋の角柱の処に菊の鉢が一つ置いてある。外側の窓の脇に榎の老木があり竹垣を四方に結ってある。その中で秋草が少し咲いている)
(二階は三尺障子が閉まっている)
店の前に料理人、帳付け、酌婦お吉、お松、その他が立って、道路の向うでしている喧嘩の方を見ている。そっちの方から喧嘩する男の声が聞えているが、だれの眼にもまだ見えていない、二階では近在からきている放蕩者が、酌婦を相手に遊んでいると見え、三味線の爪弾きの音が聞える。

料理人 (爪先立ちをして喧嘩の方を見る)
お吉  (料理人に)見える。
料理人 うンにゃ見えねえ。
お松  (少し酔っている)こんな時はのッぽが得だと思ったらそうでもないんだね。
料理人 何をいやがる。おッ、人が出てきた。
お松  まさか鬼は出てきッこないさ。
帳付け お松どんお前また酔ってるな。酔うもいいがお前のは質がよくないからなあ。やあ、人がみんな押し出されたように横町から出てきたぞ。
子守子 (息せき走ってくる)
料理人 あれッ雪崩を打って人が――あ、駈ける、みんな駈けてこっちへ来る。
お吉  (子守子を捉まえそうにして)だれが喧嘩してるんだい。
子守子 船戸の弥あ公なんだよ。
お松  えッ、弥八の奴また喧嘩か、仕様のない男だねえ、あれと来ちゃあ。
帳付け お松どんそんなことを当人の前でいうじゃないぜ、頭を半分ブッ欠かれるか知れないからなあ。
お松  いくらあたしだって、真逆あの無法者の前じゃ、迂闊に口を听きやしませんよ。お蔦さんのいい草じゃないが、体をやくざに持扱ってしまっても、まだこれで命…

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